10/27(金) ワールド・フォーカス『成功補習班』上映後に、ラン・ジェンロン監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会:新谷理映(映画ライター/コラムニスト/インタビュアー):では、まず私から質問をさせていただきたいと思います。今回の作品は、ジェンロン監督の恩師である、ミッキー・チェン監督に捧げた映画だと伺いました。そのような特別な思い入れのある作品で、俳優ではなく、監督、脚本、プロデューサーを選んだ理由と、この作品で描きたいと思ったテーマについてもお話を伺いたいです。
ラン・ジェンロン監督(以下、監督):自分の恩師であるミッキー・チェン監督を祈念して作った作品です。彼は2018年に、突然我々のもとを去ってしまいました。1年後のある日、夜道を歩いていたところ、以前、先生(ミッキ―・チェン監督)と一緒に自転車で通ったことがある橋があり、それが偶然目に入りました。当時の自分は、映画の制作が非常に大変な作業だということは分かっていたんです。また、自分が脚本やプロデューサーという役割まで、すべてやれるのかも分からない。それでも、「まあこれもいい勉強だ」と思い、脚本家のワンさん(ダニエル・ワン)に、いろいろと相談をしながら、この脚本を書きました。映画を作るのはほんとうに大変ですが、自分としては、ミッキー先生から教わったことをなんとか観客のみなさんに知っていただきたい、先生が教えてくれた、愛や友情や生きることを、観客の皆さんと分かち合いたいと思いました。
Q:台湾の映画業界にはトランスジェンダーを公表している俳優の方がいらっしゃるのでしょうか。制作側に、同性愛者やトランスジェンダーの方がいらっしゃるのかを伺いたいです。また、監督がそうした方々との交流のなかで学んだことなどがあれば、伺いたいです。
監督:私は14歳の時に先生と知り合い、いろいろなことを教わりましたが、当時の自分はあまり同性愛やトランスジェンダーに対する特別な思いはありませんでした。早くから先生と知り合いでしたが、「他の人と違うな」などと感じたこともありません。自分にとって先生は スーパーへラーメンを買いに行き、それを作って食べさせてくれる、ほんとうにやさしい先生でした。社会状況で言うと、台湾でも、トランスジェンダーに対する運動が起きていて、そうしたなかで、自分にとってその人がトランスジェンダーかどうかは気にはしていないんです。だから、ここでもあえて名前は出したくないですし、そうした人を違う角度から見るようなことも、台湾の中ではもうありません。人はみな、それぞれが単独、唯一の存在なので、自分が相手を尊重すれば、相手も自分を尊重してくれるということを、先生から学びました。
Q:エンディングロールでも流れていたレスリー・チャンの「Monica」は、いつ使用することを決めたのでしょうか。
監督:まず、曲についてですが、脚本を書くために、脚本家の方といろいろな相談をしている段階から、この曲を、ある意味時代の象徴として考えていました。また、先生がレスリー・チャンのファンだったというのも関係しています。本当に自分としては、90年代のレスリーが活躍した時代というのは、やはり楽しかった時代として記憶に残っているんです。もちろん失恋もしたけれども、それでも愛情を捨てず、また他の人を好きになっていくようなこともできました。こうした曲の歌詞と、先生がファンだったという両方の意味から、この曲を使おうと思いました。
Q:アメリカの映画やドラマのキャスティングには、ストレート・ウォッシング(LGBTQ+の登場人物をストレート/シスジェンダーの俳優が演じること)を重要視する動きなどがありますが、台湾の映画界において、トランスジェンダーの役を当事者が演じるようなことはあるのでしょうか。
監督:今回キャスティングをした俳優は実際にトランスジェンダーなわけではありません。そのうえで、もちろんトランスジェンダーの友人などから、いろいろな話を聞き、脚本の参考にしました。その中で感動した話がありました。性転換をする方が手術前に、両親に会いに行くのですが、父親は会わず、母親が印鑑と銀行の通帳を持ってきてこっそり手渡してくれたそうです。自分の子どもには、自分の好きなように生きて欲しいという思いの表れですよね。そうした話を聞いて、劇中に組み込んだりしていました。
Q:自転車のシーンが繰り返し出てきますが、あれは自分の青春時代を反映して映画の中に取り入れたのでしょうか。
監督:昔の話になりますが、ミッキー先生が教えている生徒の中でも私と友人たちは特にいたずら者で、仲良くなりました。その友人と一緒に先生の家に行ったりもしていて、その時に自転車に乗っていったんです。丸い橋を越えて、自転車で先生の家に行っていたので、橋と自転車のある風景は自分にとって懐かしく、また、忘れがたいものであります。今でも、川沿いを散歩したりしてる時に橋を見ると、懐かしいと感じたりもしているんです。そういう意味でも、橋と自転車というのは、切っても切り離せない組み合わせとして登場させました。