2023.10.29 [イベントレポート]
「イランの女性の姿を彷彿とさせ、彼女らを祝福するような作品」10/25(水) Q&A:コンペティション『タタミ』

タタミ

©2023 TIFF

 
10/25(水)コンペティション『タタミ』上映後に、ガイ・ナッティヴ監督ジェイミー・レイ・ニューマンさん(俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
司会:市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):それでは、ゲストの方々を早速お迎えいたします。共同監督で脚本、プロデューサーのガイ・ナッティヴさん。そして、プロデューサーで俳優として出演もされています、ジェイミー・レイ・ニューマンさんです。
 
ガイ・ナッティヴ監督(以下、監督):皆さん、こんにちは。私にとって、東京に来ることは本当に夢でした。そしてまた、東京国際映画祭に来ることも私の夢でした。今回が初来日ですが、この映画祭で私たちの作品が上映されることをとても嬉しく思っております。『タタミ』にはいろいろな意味合いがありますが、柔道が発祥の国、日本で上映できることを非常に嬉しく思っています。
 
ジェイミー・レイ・ニューマン(以下、ジェイミーさん):来日できたことをとても嬉しく思っています。この映画の制作にあたって、さまざまな言語が用いられました。英語で話すこともありましたし、そのほかにヘブライ語、ジョージア語、ロシア語などいろいろな言語が使われています。そのうえで、この映画のタイトルは『タタミ』に決めました。柔道発祥の国、日本へのオマージュとして『タタミ』というタイトルをつけています。レイラに降りかかるさまざまな問題と対比させ、柔道が持つ意味を考えたいと思いました。
 
市山PD:この映画は、実際の事件に基づいているのではないかと考えました。これに関して、作品の企画がスタートしたきっかけについてお話いただきたいです。
 
監督:実際の出来事として、2018年にイランとイスラエルの柔道家が武道館で戦った際、イラン側の選手に対し、怪我をして棄権しろという命令が政府から出されたことがありました。それに対して、彼はやめたくないということでそのまま戦い続け、今でもイランとイスラエルの柔道家は友情を築いています。そのほか、女性の柔道家やほかのスポーツ選手に対しても、イランの政府側から棄権しろという命令が多く出て、彼らも命令に反抗したという事実があります。これは、そのような問題を踏まえて、イランとイスラエル両方の監督が協力して製作した映画なのです。
 
Q:この映画には、通常より狭い画角の画面サイズやモノクロの色調設定など、この形式を選んだ理由をお伺いしたいです。
 
監督:この形式を用いたのは、イランの状況を示唆的に表現するためです。イランの人々が、自由のない非常に狭い空間において圧迫感や恐怖を感じ、まさに箱の中のような厳しい管理下で生活している状況を表しました。色調がモノクロなのも、同じ理由です。イランでは、白か黒かの二択が迫られ、その間に選択肢はありません。そうした抑圧的な状況からはじまり、変化の過程で徐々にスコープが開いていきます。彼らが遂に自由を手にすると、ようやく息ができるようになるという物語を、この形式で表していました。
 
ジェイミーさん:付け加えると、この映画は、ここにいるガイ・ナッティヴとザル・アミール・エブラヒミさんが共同で監督した作品です。また、エブラヒミさんはマルヤムというコーチ役で映画に出演もしています。エブラヒミさんは10年前に国外追放されてパリに移り住みました。そして、この映画は初めてイラン人とイスラエル人が共同監督した作品ですが、イランでは上映禁止になっています。昨年の撮影期間中には、3ヶ月ほど、子どもを連れてジョージアに行き、秘密裏に撮影しました。次の日の予定など撮影に関する情報は、スタッフにも俳優たちにも、すべてコード(暗号)にして伝えていたほど、イランという国に対して反抗的なプロジェクトでした。このような背景を知っていただき、芸術というのは、このような紛争や国境、政府などのさまざまなものを芸術は超越できるのだと世界に伝えたいです。
 
Q:劇中で描かれる柔道のシーンはとてもリアルだと感じました。俳優の皆さんが柔道家という役に対して行った準備や演出の内容について、伺いたいです。
 
監督:主役のレイラを演じているアリエンヌ(アリエンヌ・マンディ)さんは実際のボクサーです。加えて、半年ほどロサンゼルスで柔道のトレーニングも受けました。その際、彼女のコーチを務めたのは、選手時代、自身が柔道の世界チャンピオンにもなった実力者です。また、アリエンヌさんの相手役は全員がプロのオリンピック選手たちでした。そのなかには、数年前までオリンピックに出ていた人も含まれています。試合の様子を監修してくださったのはジョージアのオリンピックコーチで、エジプトの柔道チームのコーチを務めたこともある方です。試合のすべての動きに対して演出や振り付けをしてくれたおかげで、かなりリアルな試合のシーンが撮影できました。2台のカメラを使い、一週間かけて“タタミ”の上での戦いの様子を何度も繰り返し撮影しました。コーチとカメラマンと一緒にタイミングを合わせ、不自然な点があればその都度修正しました。審判も、ヨーロッパで活躍する本物の審判たちが務めてくれました。
 
ジェイミーさん:アリエンヌさんに主役をお願いするまでには1年かかりました。主役を探すのは本当に大変でした。キャスティングディレクターが数百人の女性をオーディションしましたが、藁の山から針1本を探すほど難しかったです。レイラを演じるためには、とにかく身体がよく動く人でなくてはなりません。最終的にアリエンヌさんと出会うことができ、私たちはとても幸運でした。彼女は、柔道に関して一切知識はありませんでしたが、作中の映像は99%彼女自身が戦っています。スタントを使ったのは彼女が怪我をした僅かな間だけでした。
 
Q:この映画は、女性を強く支持する立場の映画だと感じました。主人公2人をはじめとして、協会の理事・トップの方も女性が演じていました。この点で、フェミニズム的な映画だと感じました。
 
監督:その通りです。この映画は私1人では監督は務まりませんでした。改めて、共同監督という存在がいたからできたことだと思います。撮影スタッフのなかには、妻のジェイミーが招いたイスラエル人、イラン人やアメリカ人など様々な人がいましたが、そのほとんどが女性でした。脚本家も含めて皆が力を合わせたことで、ジョージアで撮影を行うことができ、フェミニズム的な映画としてとても力強い作品が完成しました。イランの女性の姿を彷彿とさせ、彼女らを祝福するような作品になったと思います。

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