2023.10.29 [イベントレポート]
『春江水暖』のグー・シャオガン監督が異なるスタイルで描く中国のマルチ商法
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第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に選出されたグー・シャオガン監督の『西湖畔に生きる』が10月28日に丸の内TOEIで上映。上映後に行われたQ&Aにはグー・シャオガン監督と、本作キャストのウー・レイ、ジャン・チンチン、ワン・ジアジア、イェン・ナン、ワン・ホンウェイが出席し、観客からの質問に答えた。

本作は、監督デビュー作がカンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選出された『春江水暖~しゅんこうすいだん』(2019)が世界的に高い評価を受けたグー・シャオガンの2本目の監督作。中国緑茶の名産地として知られる西瑚のほとりに住む母子が織りなすドラマだ。

前作の『春江水暖~しゅんこうすいだん』は、移ろいゆく美しい自然の中で生きる市井の人々の営みを淡々と描き出したドラマだったが、本作ではまた違ったスタイルに挑戦。雄大な自然の中で展開する前半部分と、虚構に満ちたきらびやかな世界をエネルギッシュに描く中盤以降とを、はっきりとしたコントラストとともに描き分けている。特にジャン・チンチン演じるタイホアが深みにハマっていくマルチ商法の描写は強烈なインパクトをもたらすが、グー監督は「やはりどのようにマルチ商法を描くかということが重要なチャレンジだった。今回は『春江水暖』のとはまったく違ったスタイルを狙ったわけですが、山水の雰囲気を残しながらも、社会のもうひとつの側面をどう描くか、というのはわたしにとっても挑戦だった」と語る。

また『春江水暖』の時のキャストは、ほとんどがグー監督の親戚や知り合いであったが、本作は職業俳優とのタッグであるというのも違いとなる。「社会の状況をどのように描くか、映画監督としてはいろんな選択肢がありましたが、自分としてはこの映画の中でマルチの実態を描きつつも、社会で生きる意味を見出せるようにしたいと思いました。詐欺にあいながらも、一生懸命生きている庶民の姿をより客観的に描くことが必要だと思ったんです。プロの役者に出てもらうことで、この作品をより分かりやすくしたかった。わたしの両親が見てもよく分かるような作品にしたかったんです」。

さらにウー・レイ演じる主人公の役名がフー・ムーリェンであることにちなみ、グー監督は「マルチを描いたのにはもうひとつ重要な理由があります。悪いことをして地獄に落ちてしまった母親を、目連(ムーリェン)が助けるという伝説が中国にはあるんですが、この伝統的な物語を、地獄=マルチ商法と設定して描けないかと。人間の世界と伝説の物語とをしっかりと結びつける必要があったんです」と付け加えた。

そんな本作にどのような経緯で参加することになったのか。母親のウー・タイホアを演じたジャン・チンチンは「グー・シャオガン監督の第1作を観て、本当にすばらしい映画だと感激しました。だから監督からのオファーがあったときは本当にうれしくて、すぐに出演を決めました」と語ると、「監督の映画のスタイルがとても好きなので、脚本を読んで興奮しました。この役を演じられるのがうれしかったんです。こういうエキセントリックな役は初めてで、わたしにとっては大きなチャレンジでした。だから普段わたしが出せないようなもの、普通の生活の中で持っていた雰囲気、見聞きしたものなど、すべてをこの役に盛り込んでやりきりました。わたしのすべてを解放して演じました」と明かした。その言葉に会場からも自然と拍手が湧き起こった。

そしてアクション・スペクタクル時代劇「蒼穹の剣」などで人気を博すウー・レイも、グー監督の『春江水暖』に魅せられたひとりだと明かす。「脚本を読んで非常に感激しました。これはきっとすばらしい映画になるはずだという確信もあり、これはぜひ演じてみたいと思ったんですが、一方でこんなすばらしい役をやっていいのかと迷いも非常に大きかった。しかし監督が強く望んでくれたということもありますし、家族からもぜひやるべきだという風に言ってもらったので出演を決めました」と振り返った。
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