2023.11.01 [インタビュー]
「“平和的な共存を”可能にしている町を舞台に、いろいろな民族とともに映画作りに邁進した」ーー東京国際映画祭公式インタビュー『家探し』レヴ・レイブ・レヴィン(俳優)

東京国際映画祭公式インタビュー:
アジアの未来
家探し
レヴ・レイブ・レヴィン(俳優)
 
家探し

©2023 TIFF

 
「アジアの未来」部門に出品された『家探し』は、イスラエル在住の女性監督アナト・マルツの長編デビュー作。出産を間近に控えた主人公タマラは、首都テルアビブから夫アダムの故郷である地方都市ハイファへの移住を決意し、家探しを始めるが……。
それぞれの物件にまつわるさまざまなエピソードをスケッチしつつ、喧嘩の絶えない若い夫婦とその家族の関係を絡ませて、「家とは?」「家族とは?」を問いかけるハートウォームな仕上がり。ちょっと頼りない夫アダムを演じたレヴ・レイブ・レヴィンさんに、監督や製作現場についてのお話を伺った。
 
――一緒に来日していただくはずだったアナト・マルツ監督の分まで、詳しくお話を伺いたいと思います。この作品の製作がいつ頃スタートしたか、ご存知ですか?
 
レヴ・レイブ・レヴィン(以下、レヴィン):監督がいつ頃から脚本を書いていたかはわかりません。ただ、この物語は実話に基づいています。監督と監督のパートナーの実体験なのです。もともとふたりはテルアビブで小さなカフェを経営していたのですが、それがうまく行かなくなった。それで彼の故郷のハイファに移ることにして、まずは家を探しに行ったそうです。
そのころパートナーは引っ越しに関しては積極的じゃなかった。なぜなら、いままで享受してきた都会の自由を失いたくないから。でも監督は、もっと地に足をつけた暮らしを求めていたそうです。それから、この映画では1日の出来事として描かれていますが、実際には何日くらい家探しをしていたか、私は知りません。
 
――出演の依頼はどのように?
 
レヴィン:タマラとアダムを演じる俳優を、1年以上も探していたそうです。アダムに関しては、私よりも年上の、アフリカかアジアの背景を持つユダヤ人の俳優を探していたけれど見つからなくて。あのころ私は27歳くらいで、母はロシア人ですからだいぶイメージと違いました。でも、私のエージェントが監督に「ちょっと彼を試してみて」と売り込んでくれて、何度かオーディションに行ってから決まりました。
家探し
 
――オーディションはどのように?
 
レヴィン:ひとつはハイファに向かう車の中で、アダムが持っているマリファナをタマラが窓の外に投げ捨てるシーン。もうひとつは、何もかも嫌になったタマラがパリに住んでいる母親のところへ行こうとする駅のシーン。泣いている妻をアダムが見つける、ちょっといいシーンです。そのふたつを監督やスタッフの皆さんの前で演じてみました。
 
――監督からの要求やアドバイスは?
 
レヴィン:いま、私と会ってお分かりだと思いますが、私ってとても軽い感じのする人間なんです(笑)。ですから監督からも、「そんなに軽くては困る。もっと地に足をつけた感じで」と何度も言われました。そこで監督のパートナー=アダム役を演じるのだからと思い、実在のパートナーと時間を過ごすことにしました。それがとてもおもしろい体験でした。
彼はものすごく興味深い人です。私よりはるかにシリアスで重厚で、相手の目をしっかり見て話をし、けっして視線をそらさない。そんな彼をお手本に、アダムならどう運転してどうタバコを吸って、どんな風に喋るか……ずっと考えながら演じました。正直、あまりにも意識しすぎて、撮影が終わった後も影響を受け続けています。
家探し
 
――パートナーは何をしている方ですか?
 
レヴィン:いまは“元”パートナーで一緒には住んでいませんが、子育てなどは積極的に協力しています。小説を書いたりドキュメンタリーの作品を作ったりもしている。クリエイティブな仕事をされているようです。はっきりは知りませんが。
 
――劇中で素敵な弾き語りを披露していますが、歌手活動もしているのですか?
 
レヴィン:私は俳優であって、ミュージシャンではないのですが。時々、劇中で楽器を弾いたり歌う役を演じているうちに、歌や楽器が達者になりました。この映画の弾き語りで歌っている曲は、監督が詩を書いて私が作曲しています。
とにかく、この仕事は今までのキャリアの中でもずば抜けて面白く楽しかったです。撮影中の1カ月半、スタッフも俳優もハイファにある同じホテルで一緒に生活して、家族みたいになってしまいました。この共同体はなかなかできない貴重な体験でした。
家探し
 
――ハイファはどんな町ですか?
 
レヴィン:まず、私たちがハイファで撮ったということが、この映画を特別なものにしています。ハイファという町は、イスラエルの中でもイスラエル人とアラブ人が平和的に共存している町です。その“平和的な共存”を可能にしている町を舞台にした映画を撮ることは、大きな意味があります。そして、それはクルーに関しても言えます。キャストもスタッフも、いろいろな民族が入り混じり、協力してより良い作品作りに邁進しました。
そういう意味でも、ハイファで作るということはとても理想的なことだったのです。ハイファという町は、オルタナティブというか、メインストリームではない生き方もできる町というか。一方テルアビブは、とにかく大きな都市で物価も高いし、情報も刺激も多すぎて……なんとなく繭の中にいるようで、外部のことがわからなくなるような感覚に陥りそうな。あくまでわたしの感覚ですが。
 
――作品に込められたメッセージは?
 
レヴィン:邦題は『家探し』ですが、英語のタイトルは“Real Estate(不動産)”です。この<不動産>というタイトル、すごく土地に根ざしている意味があってぴったりです。この映画に登場する若い夫婦は、地に足をつけたものを探そうとしているのです。それが彼らにとっては“家”のはずだったのですが、なかなか見つからない。
で、その代わりに見つけたものはお互いの“存在”であり、お互いを思う“愛”だった。そういう物語のタイトルが、冷たくて面白みにかける<不動産>という言葉なのが逆説的ですよね。つまり、この土地が金銭的にいくらなのかというつまらない価値観ではなく、別の物=愛を見つけたところが良いところであり、監督が伝えたかったメッセージだと思うのです。
 
――今後の活動は?
 
レヴィン:現在、28歳。これからもイスラエルで俳優を続け、監督として小説やエッセイの書き手としても活動したいと思っています。いろいろなアイディアは持っています。いずれにしても今の情勢が沈静化して、芸術を創り続けること、芸術に携わり続けることを願っています。
正直なところ、今は大切な人たちの死についてばかり心配しないで、自分自身の命が危険にさらされないでいることへの思いで頭がいっぱいです。みんながこの状況を無事に乗り切って、戦争のない時に東京国際映画祭に再び参加できたらいいなと思っています。
 

2023年10月30日
インタビュー/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)
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