2023.11.01 [インタビュー]
「今のイランの若者は、世界の若者と変わらないと思っていても、不安定さは違うのです。」ーー東京国際映画祭公式インタビュー『ロクサナ』パルヴィズ・シャーバズィ監督、ヤスナ・ミルターマスブ(俳優)

東京国際映画祭公式インタビュー:
コンペティション
ロクサナ
パルヴィズ・シャーバズィ(監督/脚本/編集)、ヤスナ・ミルターマスブ(俳優)
 
ロクサナ

©2023 TIFF

 
無為に生活を送っているフレードは、結婚式のビデオを撮影する女性ロクサナと知りあい仕事を手伝うことになるが、それは体験したことのない新たな冒険の始まりだった。1997年の東京国際映画祭ヤングシネマ・コンペティションで『南から来た少年』が東京ゴールド賞に輝いたイランのパルヴィズ・シャーパズィが、若者たちの葛藤を描き出した。イランの若者たちのやり場のない衝動、先の見えない混乱がテヘランの街に浮かび上がる。
 
――どういう発想からこの作品が生まれたのかについてお聞かせください。
 
パルヴィズ・シャーバズィ監督(以下、シャーバズィ監督):日常で起きていることに触発されて脚本を書いています。最初、映画はストーリーから生まれると考えていましたが、二本くらい作ってから、キャラクターから映画が生まれると分かったのです。まずキャラクターを見つけ、自分の考える状況の中に置けば、あとはもう簡単に物事が運ぶ。最終的には、フォーム(形式)についても考えますね。見つけると、今度はコンテクストを手に入れることが出来るのです。映画から観客とキャラクターとが葛藤するように仕立てたいのです。
 
――そうすると、まず主人公のキャラクターを想定して話を転がしていったと。彼はどこか不満を持っている設定ですね?
 
シャーバズィ監督:このジェネレーションの問題は、グローバルな問題だと思います。それぞれ国によって問題は異なるかもしれませんが、主人公は自分のいるシステムのなかで葛藤を抱えているのです。でも、ヒロインの葛藤は違います。
 
――ヒロインを映像に携わる人として想定した理由は監督の反映なのですか?
 
シャーバズィ監督:彼女の葛藤は私が作りました。ただこの世代は、一生懸命何かやりたいけれど、仕事をしても結局壁にぶつかってしまうという思いが頭にありました。多分に経済的な問題ですよね。キャピタリズム。世界を仕切っている経済問題ですね。
 
――やはりイランという国の現実みたいなものも反映されていますよね。
 
シャーバズィ監督:今のイランの若者は、携帯があり、世界中にネットで繋がっているのですから、自分たちは世界の若者と全く変わらないと考えている。ただし、イランという国にいるので、伝統的なこともあれば、法的なものもあります。
ロクサナ
 
――主人公にヤスナ・ミルターマスブを起用した理由を教えてください。
 
シャーバズィ監督:90パーセント、彼自身のキャラクターにあてこみました。
 
ヤスナ・ミルターマスブ(以下、ミルターマスブ):監督が脚本を渡してくれませんでした。例えば、笑い方や手の動かし方など、監督の指示に従って演じるのです、自分の無意識な行動や仕草をちゃんと見ていて、キャラクターに反映させている。私は、これからいろんな映画に出ると思いますけれども、これは私にとってとても大きな体験でした。
 
シャーバズィ監督:監督というのは役者を自由にさせないものだと伝えました。
 
ミルターマスブ:デビュー作は13歳でした。10年は仕事をしていて、7本の作品に出ているのですが、この作品から自分の人生が始まると思いました。ぼくは映画学校を出ていません。仕事で演技力は身につきましたが、シャーパズィ監督と60日間一緒に仕事をしたことが、自分には大学だったと言えます。
ある音声の巨匠が撮影現場に来て、「あなたの演技の時代は今から始まる」といってくれました。
ロクサナ
 
シャーバズィ監督:以前、全然関係ない場所でヤスナに会ったことがあって、事務所に来てくださいとお願いしました。彼が事務所に入ってきた時に、この人だと確信しました。
 
ミルターマスブ:親が監督を知っていました。父は監督です。
 
――ヒロインはオーディションで選ばれたのでしょうか?
 
シャーバズィ監督:ロクサナはオーディションですね。で、他の俳優たちもほとんどオーディションでした。
 
――俳優にはあまり内容を知らせない主義とお聞きしましたが。
 
シャーバズィ監督:そうですね、現場ではあまり説明していません。
 
――常にそうしたスタイルで作品を作ってらっしゃるのでしょうか。
 
シャーバズィ監督:はい、全ての作品がそうですね。プロの役者を使うこともありますが、プロは私が脚本を渡さないと分かっています。脚本を渡すと、俳優はいろいろ考えてくるのです。私はその考えを消してからやってもらうから、面倒くさいのです(笑)。
 
――この手法は最初の作品から行なっていたのですか?
 
シャーバズィ監督:1本目からスタイルは変わっていません。現場には3人のアドバイザーがいて、その人たちの役割は、撮影監督、音声、プロデューサーです。彼らにダメ出しされたら、OKが出るまで繰り返します。自分を批評してくれるスタッフがやはり一番だと思います。
撮影監督には、この空間でこういうものを撮りたいと説明し話し合います。自分の息子がやった時にも問題はありませんでした。そのやり方で、どのくらいの期間で作品を発表するかというと、大体4年くらいかかります。25年前に第1作を監督して、これまでに8本しかないですね。
 
――その期間は、機が熟するのを待つわけですか。
 
シャーバズィ監督:普通に生活して、映画のことを全く考えていないですね。突然、映画が思い浮かんできて、これはこの映画が作ってほしいと望んでいるのだと思ったりします。
ロクサナ
 
――監督は今、イメージが降りてくるのを待っている状態ですか。
 
シャーバズィ監督:この作品は1年前に作っているから、あと3年待たないと降りてこないと思います(笑)。 まあ、でも、海外で作りたいと希望しているんですよね。
 

2023年10月27日
インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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