2023.10.31 [インタビュー]
「人間の本性を解剖する実験場として、マルチ商法を主題に選びました」ーー東京国際映画祭公式インタビュー『西湖畔に生きる』グー・シャオガン監督、ウー・レイ(俳優)、ジャン・チンチン(俳優)

東京国際映画祭公式インタビュー:
コンペティション
西湖畔に生きる
グー・シャオガン(監督/脚本)、ウー・レイ(俳優)、ジャン・チンチン(俳優)
 
公式インタビュー

©2023 TIFF 左からウー・レイさん、ジャン・チンチンさん、グー・シャオガン監督

 
驚異的なロングテイクで知られるデビュー作『春光水暖〜しゅんこうすいだん』(19)から4年。長編第2作 『西湖畔に生きる』が10月28日、東京国際映画祭でワールド・プレミア上映され、監督のグー・シャオガンが主要キャストとスタッフを連れて2度目の来日を果たした。「山水図」シリーズの第2巻として制作された本作は、マルチ商法に溺れる母と彼女を救おうとする息子の姿を急転直下の展開の中に描く力作。4人兄弟の間に生じる価値観の違いを静かに見つめた前作とは打って変わる、骨太な作品を手掛けた監督と、主演のウー・レイさん、ジャン・チンチンさんが、プレミア上映の感想や作品について語ってくれた。
 
──今しがたワールド・プレミア上映を終えたばかりです。ぜひ感想をお聞かせください。
 
グー・シャオガン監督(以下、グー監督):緊張しましたが、今はすごく幸せな気持ちです。苦労して完成させた映画を、メインの俳優とスタッフとともに鑑賞できたのですから。一緒に観てくれた東京の観客に感謝します。
 
ジャン・チンチン(以下、ジャン):私は完成した作品を観るのは今日が初めてで、ドキドキしながら観ていました。そして、監督が前作と全く違う映画言語を駆使していることに驚きました。2作目でここまでスタイルを変えてくるとは思わず、すごい才能だなあとあらためて尊敬しました。
 
ウー・レイ(以下、ウー):僕は作品を観るのはこれが2回目ですが、2回観ても感動的で、いろんなシーンに驚きを感じました。観客から拍手をもらい、大変幸せな気持ちになりました。
公式インタビュー
 
──映画は何か実際に起きた事件にインスパイアされたのでしょうか。
 
グー監督:親戚にマルチ商法に携わった人がいて、様々なニュースを調べるうちに、首謀者らがいかにして人の心を掌握し、コントロールして騙すのか、興味を抱きました。マルチ商法を主題に選んだのは、その洗脳の過程というのがまるで、人間の本性を解剖する実験場のように思えたからです。人間の内なる欲望や変わりゆく心を見つめることで、自我意識や精神が脆くも手なずけられてしまうことを、観客の皆さんに理解してほしいと思いました。
 
──主演のおふたりはマルチ商法にハマる役柄を演じています。すごく勇気が要ったのではありませんか?
 
ジャン:趙丹という、中国ではとても有名な1940〜50年代に活躍した名優がおりまして、彼の著書に「地獄之門」というのがあります。その中で彼は、演技をするというのは地獄の門を潜るのと同じだと書いています。彼のこの名言を、私はタイホア役を演じることでようやく実感できました。このように洗脳されて、身も心も変わってしまう役柄を演じるには、感情も精神もすべて引き渡さなくてはならない。地獄の門を潜るのと同じなんです。私は素晴らしい監督と相手役に恵まれて、そういう得難い体験を持つことができたことに感謝しています。
 
ウー:そうですね。ムーリェンを演じるには一大決心が必要でした。というのも、これまで僕が演じてきた役柄と全然違うので、ちゃんと演じられるのか不安だったんです。監督の前作を観て受けた衝撃は、自分の演技観を変えるほどのもので、大きなプレッシャーを感じていました。家族が背中を押してくれ、監督も絶対にできると言ってくれたから決心したけど、そこにはさっき、ジャン・チンチンさんが話した「地獄の門を潜る」ような勇気が必要でした。撮影現場における最大の地獄は監督で(笑)、監督は脚本通りではなく、僕たち役者の反応を見ながら撮影を進めていきます。現場ではアドリブで指示を出され、僕たちは即興で反応しなければならない。だから考えて演技をするのではなく、ほぼ本能で演じていました。
ウー・レイ
 
──監督がこのおふたりをキャストに選んだ理由は?
 
グー監督:おふたりは私が選んだのではなく、映画に選ばれたんだと思います。先ほど、ワールド・プレミア上映後の舞台でお話しましたが、この物語は「目蓮救母」という中国の民間伝承に由来しています。そこに描かれる地獄に堕ちた母親と彼女を救う息子をいま演じられるのは、このふたりしかいないと考えました。
公式インタビュー
 
――音が先行して聞こえ、やがて映像が示されるように編集されています。こうした手法はどんな意図で用いたのでしょう。
 
グー監督:『春江水暖』でも同様の編集手法を用いたのですが、これは時間と空間を自由に往来できる感覚が欲しくてそうしています。このほかにもシーンによって、じつは様々な編集手法を試みています。
 
──梅林 茂さんのスコアもすこぶる印象的ですね。
 
グー監督:音楽に関しては、映画に力強さを与えてくれて、ポピュラーなテイストがあるもの、それでいて東洋的な響きも盛り込みたいと考えていました。梅林さんはいろんな映画音楽を手がけられ、その音楽は世界的であり、ポピュラー音楽の要素も持ち合わせています。自分はまだ新人の監督ですが、思い切ってお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。
 
──ジャンさんは今日初めて作品をご覧になったということで、感慨もひとしおだったのでは?
 
ジャン:先ほど観たばかりということもありますが、まだ映画の名残は消えないまま、ずっと私の心の中に残っています。これは素晴らしい映画であることの証です。 自分が演技に込めた情感はしっかりとこの体内に残っているし、自分が役柄に込めた思いも自然と蘇ってきました。
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──ウー・レイさんはムーリェンを演じて、俳優として大きな飛躍を遂げたと思います。あらためて監督にお伝えしたいことはありますか。
 
ウー:監督は今後、素晴らしいキャリアを歩まれると思います。だからぜひ次回作も出演させていただけるとよいのですが、今度はこれほど辛い役じゃないことを願っています(笑)。
 
──日本でもテレビドラマが放映されていて、ウー・レイさんは人気があります。日本のファンに向けて最後に一言お願いします。
 
ウー:さっき上映会場を出たところで、ファンレターをいただいたんです。中国語と英語で書かれたファンレターで、驚いたしとても感動しました。後でじっくり読ませていただきます。これからも、このような素晴らしい作品に出演したいと願っていますので、皆さんぜひ応援してください。僕ももっとうまく演じられるように努力していきます。
 
──監督はこの度、黒澤明賞を受賞されましたが、本作に黒澤監督の影響は?
 
グー監督:私には多くの尊敬する監督がおり、黒澤明もそのひとりです。芸術性と娯楽性、力強さと美しさのバランスが大変よく取れているところに、黒澤の愛され続ける理由がある。私も本作を作る際、その両面で努力しましたし、今後もその努力を続けていきたいと思います。
 

2023年10月28日
取材構成:赤塚成人(四月社)/ TIFF Times編集
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