2023.10.31 [インタビュー]
「森の中の静けさに心が癒され、その自然と一体になるスピリットを描きました」ーー東京国際映画祭公式インタビュー『鳥たちへの説教』ヒラル・バイダロフ監督

東京国際映画祭公式インタビュー:
コンペティション
鳥たちへの説教
ヒラル・バイダロフ(監督/脚本/編集/撮影/プロデューサー)
 
公式インタビュー

©2023 TIFF

 
緑深い森の中に、兵士の服装の男ダブドと女性スーラがいる。ふたりは何者かに追われて、この霧深い森に潜んでいる。さらに森を徘徊する猟師が加わって、寓意を含んだ映像が繰り広げられる。2021年に『クレーン・ランタン』で東京国際映画祭芸術貢献賞に輝いたアゼルバイジャンのヒラル・バイダロフの最新作。さまざまな解釈を許容する映像で魅了する。プロデュースにメキシコの鬼才カルロス・レイカダスが参加した点も注目だ。
 
――作品をとても興味深く拝見しました。美しい映像ですし、非常に象徴的なキャラクターも登場します。どういう風に作品を生み出したのですか。
 
ヒラル・バイダロフ(以下、バイダロフ監督):自分の内に秘めた何かに駆られて、映画を作るという感じです。最初から決まり切った映画を作りたいと思ったら作る必要はないと思っています。映画を作る過程で、キャラクターや映像を導き出す。流れに乗って創造していくスタイルですね。映画の中で猟師が登場しますが、当初は発想もしていませんでした。
 
――製作するためには、他の人たち、スタッフも巻き込んでいくわけですね。
 
バイダロフ監督:スタッフとは10年以上も付き合いがあるし、寝ても覚めても、同じ空間で時間を過ごしています。自分の主人公のキャラクターの名前は変わらないし、いつも道を歩くシーンがあって、それも10年間変わりません。セリフを言わせようと思ったら、紙に1、2行書いて渡すだけです。意思疎通ができていて、コンセプトもわかってくれます。
 
――それにしても、撮ろうと思って何が撮れるか分からないということですが、そもそも発想やアイデアはないのでしょうか?
 
バイダロフ監督:言葉に意味があるとは思っていないのです。映画を観てもらって、観ている側も作っている側も一緒に同じ旅をする気持ちになればいいと考えています。何かを計画することは嫌ですね。カメラを持って、例えば海に出た時に、海でその瞬間思ったことを映像に映すわけですから、その感性が全てなのです。
公式インタビュー
 
――この作品の場合は、始まりをどこから決めたのですか。
 
バイダロフ監督:前作の『クレーン・ランタン』を作った時、ものすごく疲れたんですよね。それで森に行ったら、静けさの中で居心地が良くて心が癒されました。自然と一体になる瞬間は夢のようで、そのスピリットを映画として捉えたいなと思いました。それを三部作という形で届けたいと考えたのが始まりです。
 
――三部作の発想はどうして生まれたのですか。
 
バイダロフ監督:私はロシアとジョージアの国境に近い、アゼルバイジャンの北の方で生まれました。三部作を最初に思いついた時には、まだ戦争は起きていませんでしたが、自分が生まれた90年代をはじめ、常にどこかで戦争は起こっていました。祖父も第二次世界大戦で足を失くしています。
三部作の最初の“Sermon to the Fish”(22)は、自分の祖父のことを思って作ったものでしたが、今回の作品は父を思って作りました。最後に「君に会えると思ったよ」というセリフは、父親が親友から言われたセリフだそうです。小さい頃から、常に戦争と自分の人生が密着しているので、自然にそういう流れになったと思います。三部作の最後の作品が、多分、自分のことになるのかなと考えています。
 
――そういう撮り方をするのもドキュメンタリーから出発されているからですか。
 
バイダロフ監督:自分の作品を、まわりが勝手にドキュメンタリーと名付けただけです。私はカメラで自然そのものを撮っていただけなのです。ジャンル分けしたのは、映画祭のような組織だと思います。私は自分の撮りたいものを撮っているだけです。
 
――そもそも、映像に興味を持った理由は何からなのでしょうか。
 
バイダロフ監督:それは、生命、命というものの意味を知りたいと思ったから。命の意味を知るために、映画の監督をしています。
 
――映画の技術を学ぶ勉強はどこでされたのですか?
 
バイダロフ監督:勉強したことはないですね。サラエボのFILM FACTORY(映画学校)に少しだけいましたが、製作するなかで、ひとつひとつ失敗から学んでいった感じです。サラエボではカルロス(・レイカダス)と出会えたことが大きいです。『死ぬ間際(“In Between Dying”)』(20)も、彼がいたからこそ完成することができたし、三部作でもいろいろなサポートをしてくれています。映画の世界で私は友達と言える人はカルロスしかいません。偉大なる先輩で、友達でもあるし、父親で、親友でもあります。
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――新しい作品のご予定はあるのですか?
 
バイダロフ監督:この映画祭に来る4、5時間前まで砂漠で撮影していました。戻ったら、次の日から撮影を続けます。今回の作品は1年かけて、四季というものを映像と音でキャプチャーしたい。1950~60年代の映画の手法に焦点を当てて作っていきたいと考えています
 
――影響を受けられた監督はいらっしゃいますか?
 
バイダロフ監督:アンドレイ・タルコフスキーです。タルコフスキーと、アレクサンドル・ソクーロフです。ソクーロフの『マザー、サン(“Mother, Son”)』(97)というタイトルの映画が大好きで、自分の作品にも全く同じタイトル(“Mother and Son”)をつけました。
 

2023年10月26日
インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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