2023.10.31 [イベントレポート]
「アルモドバルの伝統とも言える“不可能な愛”を描いた作品」10/25(水)トークショー:『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ

©2023 TIFF 『ロボット・ドリームズ』上映時Q&Aに登壇したパブロ・ベルヘル監督(左上)、『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』10/29上映時に登壇のアルベルト・カレロ・ルゴさん(右下)

 
10/25(水)ワールド・フォーカス『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』上映後に、パブロ・ベルヘルさん(アニメーション部門『ロボット・ドリームズ』監督)、アルベルト・カレロ・ルゴさん(ラテンビート映画祭プログラミング・ディレクター)をお迎えし、トークショーが行われました。
⇒作品詳細
 
アルベルト・カレロ・ルゴさん(以下、アルベルトさん):みなさん、来場していただきありがとうございます。この作品は、ペドロ・アルモドバル監督の短編です。ラテンビート映画祭は20年前から始まりましたが、そのときにアルモドバル監督の『バッドエデュケーション』(04)を上映して以来、毎年監督の新作を上映しています。監督が来日することはなかったのですが、俳優さんたちは来日してくれたこともあります。今回も監督はニューヨークで新作を撮影中ということで来日はかないませんでした。ラテンビート映画祭ではパブロ・ベルヘル監督の作品も上映させていただきます。ベルヘル監督の『ブランカニエベス』(12)という作品は、ゴヤ賞にノミネートされ、アルモドバル監督がスペインの映画の歴史の中でお気に入りの映画の1つだと語っておられました。それだけの理由でパブロさんに来ていただいたわけではないのです。実はマドリッドで彼と2人でこの『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』を観たのですが、数週間後にはTIFFにいらっしゃるということで、アルモドバル監督の作品を紹介しようということでご一緒することになりました。アルモドバル監督も『ロボット・ドリームズ』が大好きですので、みなさんご覧になってください。ベルヘル監督とお互いに知り合ったのは21年前で、私が六本木ヒルズで開催したバスク映画祭でパブロ・ベルヘル監督の『Torremolinos 73』(03)を上映して以来のおつきあいになります。今日はそのときのTシャツを着ています。
 
パブロ・ベルヘルさん(以下、ベルヘルさん):私とアルモドバル監督との付き合いは長く、最初に出会ったのは30年前のことでニューヨーク大学に行くときに推薦状を書いていただきました。最初に作った映画には、アルモドバル作品によく出演しているハビエル・カマラさんという俳優さんに出演してもらいました。そのときのエピソードがあります。その作品のプレミア上映には、自分が行くと自分に注目があたってしまうからとアルモドバル監督は来ず、劇場の支配人を呼び出して、質の悪い映写機の電球を変えるように注文をつけました。「彼の映画はいいものなので、ちゃんと上映してあげるように」と言ってくれたのです。
 
アルベルトさん:スペインにアルモドバル監督のような素晴らしい映画監督がいて、とても光栄でありラッキーだと思っています。彼は国外のスペインのイメージを変えてくれましたし、国内にも影響を及ぼしています。たとえば、彼の映画は社会において先進的であり、スペインがヨーロッパ諸国の中でも早い時期にトランスセクシャルに対する法律を成立させ、同性婚を認めるようになった理由の1つとして、アルモドバル監督が国内外で人気を博していたことがあげられます。彼の映画はとてもアバンギャルドなのですが、スペイン全土で人気がありまして、スペイン人は彼のアイデアを支持していました。そのことによって、スペインが変わる助けとなりました。すでにスペインではセクシュアリティに対して変化が起こっていたのですが、アルモドバル作品の人気により、その変化が加速しました。アルモドバル監督の映画が素晴らしいということにも感謝したいのですが、彼の映画が与えた社会の変化にも感謝したいと思います。
 
ベルヘルさん:彼の作品は、セクシュアリティをはじめ、いろいろなことに対してオープンです。そのオープンさがスペインに影響を与えました。日本には素晴らしい映画監督がたくさんいらっしゃいますが、そうした方々がセクシャリティ等、社会の変化に影響を与えるようになればいいと願っています。
 
市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):今日ご覧になった『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』については、どのようなご感想をお持ちでしょうか?
 
ベルヘルさん:2人で一緒に観たのですが、2人とも大好きな映画だったんですね。とてもアルモドバル的な映画だと思いました。メロドラマがあるし、それからビジュアルがすごく強烈ですよね。音楽も素晴らしいし、非常にハリウッド映画的なところもあり、とても感情的です。そして、アルモドバルの伝統とも言えるのですが、“不可能な愛”を描いています。イーサン・ホークとペドロ・パスカルの素晴らしい演技が見られます。
 
アルベルトさん:とてもアルモドバル的なミックス、彼だからこそできる魔術的なミックスがあるのですが、アメリカのウエスタンでもあり、スペインの台所を思わせるスペイン中央部の典型的な感じ、そこにポルトガルのファドが歌われているという、この3つの要素がミックスできるというのはやはりアルモドバルのマジックだと思います。
 
市山PD:映画の最初に歌われている曲はおそらくポルトガルのファドだと思われますが、これはどのような意味で使われたとお考えですか?
 
アルベルトさん:最初に流れた曲は、ファドのタイトルがまさにこの題名になっている「ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ(リビング)」だそうです。
 
ベルヘルさん:カエターノ・ヴェローゾの曲です。カエターノ・ヴェローゾはペドロ・アルモドバルの良き友人なんですね。俳優さんはリップシンク(口パク)をしています。
 
アルベルトさん:さっき3つと申し上げましたけれども、実際は4つの文化が混ざっているかもしれませんね。カエターノ・ヴェローゾはブラジルのアーティスト、ポルトガルのファド、アメリカのウエスタン、そしてスペイン。でももしかしたら、イタリアも入っているかもしれませんね。マカロニ・ウェスタンはイタリアですし、エンニオ・モリコーネ的なマカロニ・ウェスタンのような音楽があります。さらに、イヴ・サンローランも入っているのでフランスもかもしれませんね。
 
ベルヘルさん:非常に面白かったのは、アルモドバルの過去の作品で『欲望の法則』や『マタドール<闘牛士>』では、セクシュアリティやホモセクシュアリティというものが全面に出ていたのですが、今回の作品は全く逆で、隠しているんですね。隠しているからこそ非常に強い効果が現れているということで、その性的な緊張感というものがものすごく高まっているというのが今回の作品で私が面白いと思う点です。
 
アルベルトさん:最初の頃は非常に性的なものが明らかに出ていたんですけども、15年くらい前からはキャラクターが愛に苦しむということで、それほどセクシュアリティが全面に出ていなかったんじゃないかな。でも、性的な緊張感というのはありますよね。
僕は実はイーサン・ホークとペドロ・パスカルがベッドの上で何かをやるんじゃないかと非常に期待していたんですが…
 
ベルヘルさん:君の夢の中でね…。
 
アルベルトさん:今回、アルモドバル監督も来られなかったし、2人の俳優さんたちも非常に人気で、来日が叶わなかったというのはとても残念なんですけれども。
 
市山PD:それ以前に、今はストライキで来られないですよね。
 
アルベルトさん:いずれにしてもどなたも来日できなかったのは残念なんですけれども、こういった形で彼の新作をラテンビート映画祭、東京国際映画祭でこういう形で上映できたことを非常に嬉しく思っております。
 
市山PD:ここでパブロ・ベルヘルさんに『ロボット・ドリームズ』についても簡単にご紹介いただけますか?
 
ベルヘルさん:『ロボット・ドリームズ』は29日の日曜日に上映しますので、ぜひ皆さんご覧になってください。私の4作目の作品となりますが、アニメーションとしては初めての作品になります。非常に孤独な犬が、あまりに孤独だったので、自分の仲間になるロボットを作り、犬とロボットが親友になるのですが、ある日、ビーチで運命の別れがやってくる、といった内容です。この作品はカンヌでワールドプレミアを果たして、以降、様々な映画祭に呼ばれていますが、東京国際映画祭にもお呼びいただきましてどうもありがとうございます。
 
アルベルトさん:この映画はとても良いので、ぜひティッシュを忘れないでください。泣けます。
 
市山PD:『ロボット・ドリームズ』は日本の配給も決まっているので、皆さんが広く観ることができると思いますが、監督のトークが聞けるのはこの機会だけなので、ぜひともこの日曜日に『ロボット・ドリームズ』を観に来ていただければと思います。
 
ベルヘルさん:この作品は、私の日本アニメに対するラブレターにもなっています。

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