2023.10.28 [イベントレポート]
アニメは子ども向けであるべきか否か? 国内外のアニメーション制作者たちが語り合う
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興味深い発言が続々と…

第36回東京国際映画祭のアニメーション部門のシンポジウム「青年を描くアニメーション」が10月27日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで行われ、『トニーとシェリーと魔法の光』のフィリップ・ポシバチュ監督、『音楽』の岩井澤健治監督、『BLUE GIANT』の立川譲監督、『アートカレッジ 1994』プロデューサーのヤン・チェン氏、『駒田蒸留所へようこそ』の吉原正行監督ら、本映画祭アニメーション部門で上映された各作品の監督・プロデューサー陣が一堂に会し、話し合った。モデレーターは、東京国際映画祭プログラミング・アドバイザーでアニメ評論家の藤津亮太氏が担当した。

この企画の趣旨について、モデレーターの藤津氏は「1960年前後に生まれた世代がテレビアニメの発展とともに成長していって。その結果、アニメの主人公や、想定される観客層・ターゲットの年齢などが上昇していき、かつ視聴する側の年齢も上がっていくという現象が起きました。それは先行して発展してきたマンガの影響も大きかったんですが、こうしたことが混ざり合って、日本では青年を主人公とする、あるいはその世代の観客を想定するアニメーションがたくさんつくられることになりました」といった時代背景などを説明。ただし、「近年は世界中で長編アニメーション制作が盛んになったため、それが日本だけの特徴であると言うのは難しくなってきた」と指摘する。そこで今回のシンポジウムでは、各監督が自作で青年を描く上で意識した点などを話し合うことに。

アートカレッジ 1994』のヤン氏は、青年を描いた理由について「物語を描く上で、やはり青年時代が一番ドラマチックだと思うんです。他人との衝突、社会との衝突、そして自分自身の内面の葛藤などは重要なモチーフとなりますからね。特に中国は最近、若者の衝突が激しくなってきているので、青年をテーマに映画をつくりたいと思ったわけです」と語る。そして「確かに2015年あたりまでは中国でも、子どもや動物などを主人公とした子ども向けのアニメが主流でしたが、最近は『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』がヒットしたこともあり、大人向けのアニメも増えてきています」と中国の潮流について明かした。

一方、チェコ出身のポシバチュ監督は伝統的なチェコアニメを解説。「わたしの国は非常に長いアニメーションの歴史を有しています。70年代、80年代のチェコスロバキア時代の映画産業は国のサポートを受けていたので、子どもに関することがテーマになることも多かった。しかしそれも(1989年の)ビロード革命の後からは変わりはじめました。新しい世代のクリエーターやプロデューサーが生まれてきていて。大学でも才能豊かな短編映画がつくられるようになってきています」。

そしてシンポジウムの話題は「青年期のドラマを描くにあたり恋愛の要素は?」へ。3人の若者たちがバンドを結成するさまをオフビートに描いた『音楽』では、終盤に女子をデートに誘う描写があるが、岩井澤監督は「あれくらいが自分ができるギリギリ。なかなか恋愛を描くのは恥ずかしい。今作っている作品でもやっていないですし、むしろ絶対に描かないという意識があるかも。どうせ自分がやらなくても、そういう作品は世の中にたくさんあるので、自分はやらずともいいかなという意識ですかね」と話す。『BLUE GIANT』の立川監督は「脚本の打ち合わせの時には、(主人公)大の人間性を描くために、女の子にうつつを抜かす瞬間を入れようかという話はあったんですけど、それよりも3人のドラマなど、描くものはたくさんあったので。ジャズのことしか考えていないような男が女の子にうつつを抜かすとなると、共感というよりは中途半端になってしまいそうだったので。(恋愛の要素は)オミットしています」と明かした。

それを踏まえて「たとえばキャラクターの動機として恋愛って使いやすいと思うんですよ。たとえばひとめ惚れをしたから動くとか」といった藤津氏の指摘に、立川監督も「基本的に主人公像として、衝突があって、それを乗り越えていく、みたいなのは好きなんですが、ラブコメみたいなものがメインの動機になるというものはあまりなくて。直近だと『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』の後半にラブコメ要素がありましたけど、お客さんがキュンとするようなシーンは久しぶりに描いた気がします」と語るなど、原作の世界観などに合わせてということもあるようだ。

また、『駒田蒸留所へようこそ』の吉原監督も「変わるきっかけを入れるために恋愛要素を入れるのはありだと思う。ただ今回の物語では、そのことで(主人公に)変わって欲しくない。そういういうことじゃないんだよなということがあったので。今回はあえて語っていない。恋愛を入れるのが嫌いなわけではないですけど、今回はそれを入れる隙がなかったということです」と語った。

さらに観客からは「アニメは子ども向けであるべきだと思うか?」といった今回のテーマとは逆説的な質問も寄せられた。この日のパネリストの中で唯一、少年を主人公とした作品となるポシバチュ監督は「多くの人は、アニメは子どものためだと思っていると思うが、自分はそうは思わない。アニメにはいろいろなジャンルがあるからです。われわれの作品にも多くのテーマが含まれていますし、映画を観た観客からはとても多くの感想をいただいていています。最初はものすごくカラフルでハッピーでポジティブな、子どもっぽい作品だと思っていたけど、実際に観ると子どもには居心地の悪いものかもしれない。そこに描かれているのは人間関係であったり、死であったりするからです。それは本当に興味深いことだし、われわれはそういうことを話し合うべきだと思う」と進言した。

そして岩井澤監督が「結局アニメーションって、子ども向けと言いつつも、大人になっても楽しんでいると思うんです。もう子ども向け、大人向けという垣根もなくなってきているんじゃないかなと思います」と語ると、立川監督も「僕も同じような回答になると思うけど、どの年代の人にも、どの国の人にも観て欲しいし、そういう風に今後はつくられていくべきじゃないかなと思います。日本のアニメは一個のジャンルに特化したものを、すごくたくさんのシチュエーションでつくられる傾向があって。例えば主人公が何の脈略もなく異世界に行って活躍するというような作品などもたくさんつくられているんですけど、個人的にはもっと自由な発想で、もっと自由にアニメがつくられるといいなと思います」と思いを語った。

さらにヤン氏も「自分もアニメは子どものためにつくられるものではないと思うんです。自分は40代に突入するくらいの年齢なんですが、『クレヨンしんちゃん』も観ますし、『ドラえもん』だって観ます。それと同時に宮崎駿監督の作品だって観ています。そしてそれに付け加えるならば、アニメは子どものためにつくられるものではないですが、アニメを観ることで若返ることはできます」と指摘する。

そして吉原監督は「もともとアニメは子どものものだよねというスタート段階があって。それは崩れずに、ずっとあるんだと思いますし。でもやっぱり商売がからむと難しいですよね。だからつくり手としては、そこの枠には振り回されないように、という感じですかね」とかみ締めるように語ると、「僕も7歳の子どもがいるんですけど、その子を見ていると「え、そこを見ないの?」と思ってしまうところがいっぱいあって。でもそここそがつくり手がたぶん見てほしいところだと思うんですよね。だからそれを観てもらうためにどうするのか、というのはあると思います」と打ち明けた。

第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催。
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