10/24(火)Nippon Cinema Now『彼方のうた』上映後、杉田協士監督、眞島秀和さん(俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会:市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):それでは早速ゲストの方々をお呼びしますので、皆さん、拍手でお迎えください。
杉田協士監督、そして出演の眞島秀和さんです。
杉田協士監督(以下、杉田監督):こんばんは。『彼方のうた』を監督しました杉田協士と申します。今日、こうして日本でのプレミア上映を迎えられ、皆さんとご一緒できてとても嬉しいです。
眞島秀和さん(以下、眞島さん):この映画に出演しております俳優の眞島秀和です。本日はご来場いただきましてありがとうございます。杉田監督とは20代の頃から出会って20年以上の付き合いがあります。その杉田監督の作品の東京国際映画祭での上映にご来場くださいまして重ね重ねお礼を申し上げます。今日はよろしくお願いいたします。
市山PD:まず杉田監督に、この映画はオリジナル脚本だと聞いていますが、どのようなかたちで映画をスタートさせたのか成り立ちをお聞きしたいと思います。
杉田監督:『彼方のうた』は、元々は私の前作『春原さんのうた』という映画を観てくれたプロデューサーの方が、あなたと一緒に映画を作りたいと声をかけてくださったことで始まりました。そして久しぶりに自分でオリジナル脚本を書いて作ろうと思ったのですが、その頃、私の過去の作品についての感想をとても長いメッセージで送ってくださった今作の主演の小川あんさんと一緒に作ることを決めさせてください、と伝えて、その小川さんを中心にお話を書き始めました。
いつも、脚本・お話を考える前に、そのとき一緒に映画を作りたいと思う方にお声がけしていって進めていきますが、頭に浮かんだのが眞島秀和さんと中村優子さんでした。まだ脚本が無い状態でオファーするのは難しいと思いつつも心の中にお二人のことを思いながら脚本を書きました。
映画学校での学生時代の作品に出ていただいた眞島さんと、いつか自分がちゃんと映画をやれるようになってからご一緒したいとずっと願っていましたのでうれしいです。
市山PD:20年前からの知り合いと聞いてびっくりしましたが、卒業制作に出られた時からの知り合いということでしょうか。
眞島さん:はい、そうです。
市山PD:今回のオファーが来たときはどう思われましたか?
眞島さん:杉田君とはいつか一緒にやりたいなという気持ちはずっとありました。最初に今回の作品のシナリオ・脚本を読んだときに難解というか難しい・省略している、非常に杉田君らしい作品であり、俳優としては難易度が高いと最初に思いました。
杉田監督:ご覧いただいた映画は他の映画に比べると説明が少なかったと思います。でも撮影の現場では、私がどの程度の表現・説明でいくか迷っていた時に少し説明を足したりすると眞島さんが、杉田映画はそれ無くていいんじゃないか、と私を鼓舞するというか….
眞島さん:俺そんな生意気なことを監督に対して言ったの?!
杉田監督:いや、生意気じゃなく、励ましてくれたのです(笑)
Q:本作は前作と地続きの世界観のように感じたのですが、どのように前作を意識されたのか教えてください。
杉田監督:私は作品を作るときに、登場する人物の人生全体のことを思い浮かべるようにしています。そしてこの作品である人物を描くのは、その人物の人生の中のこの時点まで、という形で製作時に決めるようなことをしています。逆に言えば、私が作品の中で描くのをその時点まで、と決めただけで、登場人物の人生は実は映画の外で続いているということです。私が別の作品を作る際に以前の作品の登場人物が再び現れる、というのは実はわたくしにとって非常に自然なことなのです。あくまでも「この作品はこうした世界に登場するこの人物のこの期間にフォーカスを当てて描く」という気持ちでいつも作品作りに臨んでいます。例えば今日お越し頂いた方の誰かにお許しを頂いて、一定期間を切り取りながらフォーカスを当てていったら、それは必ず映画という作品になると思っています。そしてその作品の撮影の途中に登場する他の誰かも、改めてフォーカスを当てればまた別の作品が作ることができる、という感覚なので、実は本作の中でカフェで働いている赤い髪の女性は前作の主人公という想定をしていました。とまぁ、私はそうしたイメージを膨らませながら映画作りを続けています。
Q:監督に、映画のアスペクト比が独特のように感じました。それにどのような意味があるのか教えてください。
杉田監督:画面が横に長いとどうしても色々なものに目が行ってしまうと思うんですよね。一方でそんなに長くなければ、今ここに目をやればいいんだというのが観客の方々にもわかりやすく伝わると思っているんです。そして1つのシーンで描きたいものがそこまでたくさんあるわけではないので、横に長くないアスペクト比を採用して、観客の方々が集中してみることができるようにしています。
Q:眞島さんは劇中で演技をするシーンがあり、ああいった劇中の芝居のシーンで俳優として留意していることがあれば教えてください。
眞島さん:監督に画面サイズの質問を頂いてありがとうございます。私も実は気になっていたんですよね。ただ監督に聞くに聞けない雰囲気があって、今お答えを聞いてなるほどなと感じました。質問頂いた方、ありがとうございます。また私に頂いた質問についてお答えします。現場に入った初日にある程度予想をしていたのですが、本作の現場はほかの現場ではなかなか味わうことができなような優しい時間が流れていたんですよね。(他の現場では)まるで自分がすごく汚れた存在であるかのような空気が現場を満たしていて、こういう空気の現場に来たからには、このシーンをどう演じようとか、こんなトーンでセリフを言ってみようとか、そんな小細工みたいなことをすることがあるのですが、そういったことはいったん忘れて、その場にいる共演者の方々や撮影現場全体の雰囲気に包みこまれてみようという、ある種身を任せるようなアプローチで演技を行いました。
Q:眞島さんにお伺いさせてください。劇中で素人のように演じなければならないシーンがあると思うのですが、プロの俳優にとって難しさがあったのではないかと感じていました。シーンについてぜひもう少し教えてください。
眞島さん:まさにおっしゃっていただいた通り、難しいといえば難しいシーンだったのですが、ただこの際あまりそのシーンについては複雑なことは考えずに、ある種劇中の「お父さんが頼まれて演技をすることになった」という設定そのまま飲み込んで演技をした、というのが正直なアプローチになります。
Q:監督が作品の中であえて言葉にしなかった部分が、国際映画祭という場で英語字幕がつくことによって、逆に明示的に表現されてしまう箇所があるようにも見えました。あるシーンで「この人の関係性は何なんだろう」と思った瞬間に英語で“Dad”と説明が付されてしまう箇所がありました。監督はこのような英語字幕について感じられている部分はあったのでしょうか?
杉田監督:英語字幕は私もすべてチェックしていて、ご指摘を頂いた“Dad”の部分はもともと“Tsuyoshi”となっていたのを変更してもらった箇所なんです。私の前作である『春原さんのうた』は欧州で評価を頂いた作品でもあり、誤解を受けやすいところもあるのですが、欧州の観客に受け入れてもらった、というのはむしろ逆なのです。私は海外の観客に怒られないギリギリを探さないといけないと考えていて、ご質問のシーンであれば「さすがにここは“Dad”と書いていないと海外の方が劇場を出て行ってしまうのではないか」といった発想でつけてもらった部分でした。
Q:杉田監督の作品の特徴として、登場人物の後ろ姿をとらえたショットが多いのと、バイクでの移動が多いという点が挙げられると思っています。後ろから捉えているショットがやはり印象的で、敢えて人物の後ろ姿を描写するという手法にどのような意味が込められているか教えてください。
杉田監督:眞島さんはどう思われますか?
眞島さん:これもまさに私も聞いてみたかったところなんですよね。答えを知りたいです。
監督:これは私だけでなく撮影監督の飯岡幸子さんも関わる話なのですが、私と飯岡さんの共通的な感覚として「カメラを向けた部分が表」という捉え方をしていないんです。例えばいま私たちは舞台に立っていて、観客の皆さんがカメラを我々に向けるので、「舞台が表」のようなものの見方をするのではないかと思いますが、あくまでも私と飯岡さんは「映画の中の世界には表などない」という感覚の中で映像づくりをしています。大事なのは私が演出をして、ある出来事を映像の中に収めた際に、その出来事を描くのにカメラを置くべきベストな場所はどこか、ということを考えてカメラの位置を決めています。そのため、人物同士が仮に重なったとしても、起きたことが分かりやすく伝わるのであればそれは全く問題がないのです。また、飯岡さんに「よく後ろ姿を撮影しますね」と聞くと、おそらく本当に意外な気持ちで「え?」というリアクションをされます。彼女は自覚していないんですね。
市山PD:本作の一般公開のご予定は?
杉田監督:本作は2024年1月5日から東京のポレポレ東中野、渋谷シネクイント、池袋シネマ・ロサという3館で上映されることが決まっています。その後、他の街でも上映いただけるよう頑張っていますので、これからも応援していただけると嬉しいです。