2023.10.24 [イベントレポート]
トラン・アン・ユン監督、『ポトフ』主演2人の関係は「僕たち夫婦に似ているかも」
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トラン・アン・ユン監督

国際交流基金と東京国際映画祭の共催による交流ラウンジで、ガラ・セレクション部門に『ポトフ(原題)』が出品されているトラン・アン・ユン監督が10月24日、マスタークラスと題したトークショーを行った。

19世紀末のフランスを舞台に、有名な美食家(ブノワ・マジメル)と天才料理人(ジュリエット・ビノシュ)が究極のメニュー作りに打ち込む姿が描かれる作品。「食べ物に関する映画をずっと撮りたかった。料理はひとつのアート。しかも具体的に過程をリアルに描くことができる」と製作意図を説明。さらに、「人生の秋に差し掛かった夫婦の愛情も描いてみたかった。それも対立構造のない、穏やかな夫婦を描くことはともすれば退屈な映画になってしまう。そこは監督としての賭けだった」と振り返った。

キャスティングに関しては、ビノシュとはエージェントが同じで「早い時期から一緒にやろうと約束していた」という。だが、マジメルについてはかつてビノシュとの間に女児をもうけた経緯があり「20年ほど共演していなくて、僕のアイデアにジュリエットは不安だったようだが、ブノアは即快諾してくれたんだ」とうれしそうに話した。

ビノシュがマジメルにキスをするシーンがあるが、「僕はそんなこと脚本に書いていなかった。カットをかけた瞬間、ブノアが走ってきて「指示したのか?」と言ってきた」というエピソードを披露。「彼女が役になりきってしたいと思ったんだろ、と答えたが、とても美しいシーンになった」と満足げだ。

93年の監督デビュー作『青いパパイヤの香り』の主演女優で妻のトラン・ヌー・イェン・ケーとは常に共同作業を続けており、『ポトフ』ではアートディレクションと衣装を担当。「彼女は信じられないくらいの観察眼があって、即座にいい、悪いを察知する貴重な才能の持ち主。的確なものを作って、それがおのずと美しいものへとつながっている。『ポトフ』の二人と、ちょっと似ているところもあるね」とのろけ交じりに評した。

『ノルウェイの森』(2010)を監督するなど日本映画とも縁が深く、今年の映画祭で生誕120年記念企画が行われている小津安二郎監督作品では『秋日和』(1960)を好きな作品に挙げ、「とても訴えてくるものがあって、僕の成熟と関係があるかもしれない。表情の美しさや人間存在の不明瞭さなど、僕の映画にも大きな影響がにじみ出ていると思う」と敬意。その上で、「見てくれる方の五感を目覚めさせたいという欲求は常にある。そのためには、どんなにシンプルなシーンでも躍動感が大切で、映画的手法を駆使して精度の高い映像を作らなければいけないと思っている」と持論を展開した。

第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催される。
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