2023.10.25 [イベントレポート]
役所広司、坂本龍一さん最後のピアノソロコンサートは「一音一音丁寧に心を込めて演奏する坂本さんの顔が美しい」
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役所広司

第36回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門で『Ryuichi Sakamoto | Opus』(空音央監督)が上映され、生前の坂本龍一さんと親交があった、俳優の役所広司が坂本さんとの思い出を語った。

映画は坂本さんがこの世を去る前に、スタジオで遺した最後のピアノソロコンサートで、演奏する坂本さんの姿をモノクローム映像で捉えた珠玉のドキュメンタリー。

「一方的に大ファンで恩師だと思っています」と語る役所、坂本さんと知り合ったきっかけは「ニューヨークで坂本さんの仕事場の前のイタリアンレストランで食事をごちそうになったのが出会いです。それ以降は映画の音楽のことで坂本さんに教えを乞うて、アイデアをいただいたことがあります。それを機に、坂本さんの人柄と才能に惹かれてよく連絡させていただきました」と明かす。

大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』に出演、音楽も手掛け、1983年の映画界に鮮烈なデビューを果たした坂本さん。役所にとって、そのイメージは「時代の先端を行く、才能あるお兄さんという感じでした。その時代は本にも書いていらっしゃいましたが、お金と女性に目がくらんだ時代だと仰っていて(笑)。若いころから教授と呼ばれて、そんな時代も経て、そしてその後も映画で見る坂本さんは素晴らしい音楽家になられたんだと思います」と述懐する。

プライベートでの坂本さんについて「ユーモアがある方で、面と向かってお話しすると緊張してしまうのですが、メールでいろんなことを聞いたりすると非常に丁寧にお答えくださって。僕は間が悪い男で、坂本さんが具合が悪い時にメールを送ってしまって。でも、良くなってきたころにお返事を下さって、その頃コロナのパンデミックだったので、僕の体も気を付けて、と気遣ってくれる方でした」と振り返る。

Ryuichi Sakamoto | Opus』の感想を問われると、『PERFECT DAYS』で、カンヌのレッドカーペットを歩く前に、ずいぶん待たされたんです。その時に『戦場のメリークリスマス』のテーマがかかって、ぞくっとしました。ここに坂本さんがいるなあと思いました。以前、坂本さんとは対談をした時に、NHKのスタジオで坂本さんの演奏を聴いたことがありますが、その時の坂本さんとこの映画の坂本さんとは違いを感じます。お元気な頃の坂本さんはピアノに向かうと気迫を感じ、体力も筋力もあって。この映画の中での坂本さんには、もう筋力はないのですが、人間の“気”だけで、一音一音丁寧に心を込めて演奏されていている坂本さんの顔が美しいと思いました。すべてがそぎ落とされたときに、こんなに美しい姿で、音楽家としてこんなに素晴らしい音楽を奏でられるのか、と感動しました」としみじみ語った。

第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催される。
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