2023.10.24 [イベントレポート]
チャン・イーモウ監督が語る、中国で大ヒットの歴史大作『満江紅(マンジャンホン)』製作秘話
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チャン・イーモウ監督

第36回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門で10月24日、中国の巨匠チャン・イーモウ監督の新作『満江紅(マンジャンホン)』が上映され、チャン監督が監督とのQ&Aに応じた。

中国の旧正月に公開され、大ヒットを記録した歴史エンタテインメント大作。中国南宋の時代を背景に、英雄・岳飛が残した詩「満江紅」をモチーフに、南宋朝廷内部に渦巻く謀略を壮大なスケールで描く。

本作製作のきっかけを「6年前、山西省に撮影用の屋敷を建てました。昔撮った映画『紅夢』の続編を撮ろうと思ったのですが、脚本がうまくできずに困っていました。その後、現地の行政から映画を作ることを催促され、そこから始まった企画です。『紅夢』と全く違う物語を撮ろうと思ったのですが、脚本は4年かかりました」と明かす。

チャン監督の大ファンだという観客から、どうしたらそんなに面白い映画が作れるのか?という質問を受け、「この映画は難しかったです。舞台は閉鎖された空間、一晩、わずか数時間の話の中に、サスペンス、物語の逆転など様々な要素が盛り込まれています。現代中国の最高の俳優たちが集まり、全員ユーモアのセンスがあります。私はコメディを大事に考えており、そこにはローカルな笑いのツボがあって、その他の地域の人には理解されづらいと思っていました。しかし、ここでも笑い声が聞こえて、中国以外の方々にも伝わったのかと思います」と答える。

中国史が揺れ動く宋の時代を舞台にし、歴史上の人物である岳飛と秦檜、中国ではどのように伝えられているのか?と問われると、「多くの歴史学者がいろんな研究をしていると思うので、私にはお答えできません」と前置きし、「中国の一般の人々は岳飛が英雄、秦檜が悪人という認識があり、そういった庶民の観点から見るふたりがどんな人物か?ということを描きたかったのです。『満江紅(マンジャンホン)』の詩は中国人の老若男女みんな知っている詩です。皆が暗記させられて、心の中に残っているもの。しかし、実際に岳飛が書いたのかどうか、今でも議論されており、その議論がクリエイターにとって、モノづくりができる余白となっている。この詩が書かれてから、世の中にどのように伝わったのかはよくわからないこと。それがフィクションを作る監督にとって、絶好の空間だったのです」と本作はあくまでフィクションであることを強調した。

そして、「映画の中で殺し屋や刺客を描くとき、必ず誰かを殺す結末になるが、この映画では殺すことが目的ではなく、この詩をどのように誘い出すかを描きます。それがこの映画の魅力なのです」と付け加えた。

自身の映画製作のプロセスについては「私が映画監督になる前は、寡黙な人間でした。しかし、監督になってからは口数が多くなって、いつでも話通しです。まず、脚本家や脚本家グループと延々と朝から晩まで話をします。この段階を経て、脚本が作られます。その次の段階に、製作チームを作って、役者を揃えて撮影のスタンバイをしますが、今度は役者ひとりひとりと延々と話をします。役者にとっても大変だと思いますが、最も重要なことです。私はこの2段構えで映画作りをしています」と、会話でのコミュニケーションが重要であると明かす。

さらに「中国で監督をやるメリットは、監督は脚本を変更できることです。これは若い監督でも可能です。それは大きな空間を与えられるということ。私はハリウッドでの仕事の経験がありますが、そのやり方は好きではありません。監督が脚本を変えることは絶対許されないのです。セリフ一つ変えるのも、様々な許可を取らなくてはなりません。ですので、映画を撮るのは中国がいいですね」と、中国での映画製作の利点を挙げていた。

第36回東京国際映画祭は、11月1日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
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