©2023 TIFF イタイ・タミール(プロデューサー)と電話越しのアナト・マルツ監督
10/23(月) アジアの未来『家探し』上映後、アナト・マルツ監督、イタイ・タミール(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
司会・石坂健治(以下、石坂SP):昨今の状況によりアナト・マルツ監督の来日が難しいため、プロデューサーのイタイ・タミールさんがお越しくださいました。新人のアナト・マルツ監督は初長編である本作が東京国際映画祭にて世界初上映ということもあり、来日できないことを非常に残念に思っていらっしゃいましたが、お電話がつながっております。
©2023 TIFF 電話越しのアナト・マルツ監督
イタイ・タミールさん(以下、イタイさん):本日はお越しいただきありがとうございます。監督は、イスラエルのハイファ在住で、自身の家探しの経験をもとに脚本を執筆しました。また、今作の編集も監督自身で行っております。本日はお電話を介してお話いただきます。
アナト・マルツ監督(以下、監督):日本という素晴らしい映画の伝統がある国の映画祭で、私の初監督作品が紹介されることを非常に名誉に感じています。この作品を制作するにあたり、たくさんの人々の力をお借りしました。才能のある方々が気前よく力を貸してくださいました。キャストの皆さん、撮影班、プロデューサーの方々、そして私の家族、子供たち、友人。私にとって彼らは奇跡のような存在です。残念ながら、戦争の勃発により、皆さまと同じ空間へ行くことはできません。現在、自分を取り巻くひどい暴力や恐怖は言葉に言い表せないほどです。皆が大きなショックと悲しみに暮れています。この『家探し』という作品は、人間についての普遍的な映画です。出身がどこであれ、誰もが必要としている家を探し求める物語です。この作品では、愛について、子供を持ち家族を持つということについて、人間関係のさまざまな難しさについて、そしてある場所に根を張り安定した生活をする、つまり人々が求めている家について語っています。そのため、たくさんの人々が自分の家を失ってしまった今の世界の状況をみると、この映画は最初に意図したものとはまた違う意味を持つようになったのかもしれません。
私の周囲で起きていることは、恐怖や戦慄を覚えるような状況ですが、それでも私は人間というものを信じています。私たちの多くは、平穏な人生を送りたいと願っています。そして、現在続いているような、狂信的な人々やテロリスト、あるいは好戦的な指導者たちによって私たちに押し付けられている、この死の連鎖を終わらせたいと思っている人々がほとんどです。このような状況にあっても、私は何とか希望を捨てずに持ち続けたいと考えています。平和への気球です。この映画はアラブ人・イスラエル人・ユダヤ人みんなで制作したものです。この作品が撮影されたハイファという街は、ユダヤ人とアラブ人が平和に共存している、世界でも大変珍しい街のひとつ。ハイファには流血の惨劇はありません。
このような状況の中、この作品が、アジア、そして中東のさまざまな国々から参加しているほかの映画とともに東京国際映画祭で、映画館という聖なる場所で上映されていることに思いを馳せています。この聖なる場所においては敵意も暴力も存在せず、そしてわずかな瞬間であっても、映画芸術というものが現在私たちを取り巻いている暗闇に希望の光を投げかけてくれるのです。本日は本当にありがとうございます。映画を楽しんでいただけたのならば幸いです。
イタイさん:私も皆さまと一緒に映画を見てとても楽しむことができました。皆さまもそうであることを願っています。
Q:英題の‟Real Estate”には、どのような意味が込められているのでしょうか。
監督:英題の‟Real Estate”にあたるヘブライ語は、古代の方言に由来しています。この言葉は、土地に根ざし、もはや土地の一部ともいえる物件のことを意味しています。つまり、劇中のこの若い夫婦は、ただ家を求めているだけではなく、自分達が根をおろす場所を求めているのです。このような意味を込めて、‟Real Estate”を選びました。
石坂SP:‟Real Estate”を辞書で引いてみると、日本語では、不動産という訳になります。ただ、邦題を検討する際に不動産というのは味気ないということで『家探し(いえさがし)』に決めたというのが、邦題が決まるまでの経緯です。
イタイさん:そのようなタイトルをつけていただき、ありがとうございます。とてもいいタイトルだと思います。ほかの方々も同じように感じてくださっているでしょう。
Q:本作の舞台、ハイファではたくさんの煙突が山の上にある様子が映像で見られます。そこには、監督のハイファに対する様々な想いが込められているのだと推察しました。テルアビブからハイファに移られたという経緯も踏まえ、監督のハイファに対する想いがあればお伺いできればうれしいです。
監督:まず、先ほどお話した通り、これは事実に基づいたお話です。私は、テルアビブ出身ですが、そのあとハイファに引っ越し、現在も住んでいます。そのような経緯があり、ハイファに対する想いはさまざまです。この作品の中では、ハイファという街を一人の登場人物として扱う気持ちで撮影しました。ほかの登場人物と同様、ハイファはとても複雑な存在です。つまり、さまざまな見方ができる街です。今ではもう長年ハイファに住んでいることもあり、テルアビブに戻りたいとは全く思いません。それだけハイファにはさまざまな魅力があります。山々があり海があり、本当に色々な種類の魅力に満ち溢れた街であることが、この映画の舞台に選んだ理由のひとつです。この景色が見せる多様性というものが、タマラ(Tamara)とアダムの関係性の様々な側面にもつながっていると感じています。
Q:この作品を通してハイファをここに持って来てくれたことを、監督に心からお礼を伝えたいです。私はハイファ出身です。日本でこの作品が観られることは、私にとって非常に大きな意味を持っています。ご存じの通りの情勢によって、しばらくイスラエルに帰ることができないからです。ハイファを東京に連れてきてくださり、ありがとうございました。この意味のある映画を今この世界に発表してくださったということにお礼を言いたいと思います。
監督:私のこの作品の最初の観客になってくださった皆さま、今夜は本当にありがとうございました。
©2023 TIFF イタイ・タミール(プロデューサー)と電話越しのアナト・マルツ監督
10/23(月) アジアの未来『家探し』上映後、アナト・マルツ監督、イタイ・タミール(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
司会・石坂健治(以下、石坂SP):昨今の状況によりアナト・マルツ監督の来日が難しいため、プロデューサーのイタイ・タミールさんがお越しくださいました。新人のアナト・マルツ監督は初長編である本作が東京国際映画祭にて世界初上映ということもあり、来日できないことを非常に残念に思っていらっしゃいましたが、お電話がつながっております。
©2023 TIFF 電話越しのアナト・マルツ監督
イタイ・タミールさん(以下、イタイさん):本日はお越しいただきありがとうございます。監督は、イスラエルのハイファ在住で、自身の家探しの経験をもとに脚本を執筆しました。また、今作の編集も監督自身で行っております。本日はお電話を介してお話いただきます。
アナト・マルツ監督(以下、監督):日本という素晴らしい映画の伝統がある国の映画祭で、私の初監督作品が紹介されることを非常に名誉に感じています。この作品を制作するにあたり、たくさんの人々の力をお借りしました。才能のある方々が気前よく力を貸してくださいました。キャストの皆さん、撮影班、プロデューサーの方々、そして私の家族、子供たち、友人。私にとって彼らは奇跡のような存在です。残念ながら、戦争の勃発により、皆さまと同じ空間へ行くことはできません。現在、自分を取り巻くひどい暴力や恐怖は言葉に言い表せないほどです。皆が大きなショックと悲しみに暮れています。この『家探し』という作品は、人間についての普遍的な映画です。出身がどこであれ、誰もが必要としている家を探し求める物語です。この作品では、愛について、子供を持ち家族を持つということについて、人間関係のさまざまな難しさについて、そしてある場所に根を張り安定した生活をする、つまり人々が求めている家について語っています。そのため、たくさんの人々が自分の家を失ってしまった今の世界の状況をみると、この映画は最初に意図したものとはまた違う意味を持つようになったのかもしれません。
私の周囲で起きていることは、恐怖や戦慄を覚えるような状況ですが、それでも私は人間というものを信じています。私たちの多くは、平穏な人生を送りたいと願っています。そして、現在続いているような、狂信的な人々やテロリスト、あるいは好戦的な指導者たちによって私たちに押し付けられている、この死の連鎖を終わらせたいと思っている人々がほとんどです。このような状況にあっても、私は何とか希望を捨てずに持ち続けたいと考えています。平和への気球です。この映画はアラブ人・イスラエル人・ユダヤ人みんなで制作したものです。この作品が撮影されたハイファという街は、ユダヤ人とアラブ人が平和に共存している、世界でも大変珍しい街のひとつ。ハイファには流血の惨劇はありません。
このような状況の中、この作品が、アジア、そして中東のさまざまな国々から参加しているほかの映画とともに東京国際映画祭で、映画館という聖なる場所で上映されていることに思いを馳せています。この聖なる場所においては敵意も暴力も存在せず、そしてわずかな瞬間であっても、映画芸術というものが現在私たちを取り巻いている暗闇に希望の光を投げかけてくれるのです。本日は本当にありがとうございます。映画を楽しんでいただけたのならば幸いです。
イタイさん:私も皆さまと一緒に映画を見てとても楽しむことができました。皆さまもそうであることを願っています。
Q:英題の‟Real Estate”には、どのような意味が込められているのでしょうか。
監督:英題の‟Real Estate”にあたるヘブライ語は、古代の方言に由来しています。この言葉は、土地に根ざし、もはや土地の一部ともいえる物件のことを意味しています。つまり、劇中のこの若い夫婦は、ただ家を求めているだけではなく、自分達が根をおろす場所を求めているのです。このような意味を込めて、‟Real Estate”を選びました。
石坂SP:‟Real Estate”を辞書で引いてみると、日本語では、不動産という訳になります。ただ、邦題を検討する際に不動産というのは味気ないということで『家探し(いえさがし)』に決めたというのが、邦題が決まるまでの経緯です。
イタイさん:そのようなタイトルをつけていただき、ありがとうございます。とてもいいタイトルだと思います。ほかの方々も同じように感じてくださっているでしょう。
Q:本作の舞台、ハイファではたくさんの煙突が山の上にある様子が映像で見られます。そこには、監督のハイファに対する様々な想いが込められているのだと推察しました。テルアビブからハイファに移られたという経緯も踏まえ、監督のハイファに対する想いがあればお伺いできればうれしいです。
監督:まず、先ほどお話した通り、これは事実に基づいたお話です。私は、テルアビブ出身ですが、そのあとハイファに引っ越し、現在も住んでいます。そのような経緯があり、ハイファに対する想いはさまざまです。この作品の中では、ハイファという街を一人の登場人物として扱う気持ちで撮影しました。ほかの登場人物と同様、ハイファはとても複雑な存在です。つまり、さまざまな見方ができる街です。今ではもう長年ハイファに住んでいることもあり、テルアビブに戻りたいとは全く思いません。それだけハイファにはさまざまな魅力があります。山々があり海があり、本当に色々な種類の魅力に満ち溢れた街であることが、この映画の舞台に選んだ理由のひとつです。この景色が見せる多様性というものが、タマラ(Tamara)とアダムの関係性の様々な側面にもつながっていると感じています。
Q:この作品を通してハイファをここに持って来てくれたことを、監督に心からお礼を伝えたいです。私はハイファ出身です。日本でこの作品が観られることは、私にとって非常に大きな意味を持っています。ご存じの通りの情勢によって、しばらくイスラエルに帰ることができないからです。ハイファを東京に連れてきてくださり、ありがとうございました。この意味のある映画を今この世界に発表してくださったということにお礼を言いたいと思います。
監督:私のこの作品の最初の観客になってくださった皆さま、今夜は本当にありがとうございました。