10/23(月)コンペティション『ゴンドラ』上映後、ファイト・ヘルマー監督、ケイティ・カパナゼさん(アシスタント・ディレクター)、ニニ・ソセリアさん(俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会:市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):それでは皆さまから一言ずつお話いただけますでしょうか。
ファイト・ヘルマー監督(以下、監督):皆さまこんばんは。今回、本作のワールド・プレミアを東京で行うことができ大変うれしく思っています。本作ができ上がるまで、非常に長い旅路でした。3年前のパンデミックの時期、小規模のクルーで撮影可能な映画はないかと考えていた頃、ジョージアのケーブルカーを思い出して書き上げたのが本作です。非常に小さなスケールで撮影に臨み、クルーは全部で7人だけでした。私は監督だけでなく録音係やトラックの運転係などを兼ねながら撮影を行っていました。
ニニ・ソセリアさん(以下、ソセリアさん):皆さまこんばんは。今回初めて東京という地にやってきて、これほど素晴らしい機会に恵まれ、大変うれしく思っています。
ケイティ・カパナゼさん(以下、カパナゼさん):私も東京という街を訪れることができ、ワールド・プレミアを行うことができて、大変うれしく思っています。この映画は、ジョージアの山奥で撮るというとても大変な制作工程を経て生まれました。監督もお話していましたが、その工程を非常に少ないクルーでこなしていました。こうして今、東京に来ていることをとてもクレイジーに思います。ジョージアで撮影し、ドイツにも行き、そして東京に来ている今、世界がとても小さくなった気がしています。
市山PD:監督はドイツ出身ですが、当時はなぜジョージアで『ゴンドラ』を撮影しようと考えたのでしょうか。
監督:ジョージアという場所は非常にユニークだと感じました。もちろんドイツにもケーブルカーはありますが、ドイツのケーブルカーはとてもモダンで、あまりおもしろいものではありません。一方で、ジョージアのケーブルカーには何か魂が宿っているような気がしました。この作品の2人の主人公はとても脆い設定ですが、このケーブルカーは何か彼女たちを守る宇宙服のような機能を持っているようにも見えていました。この場所や風景というのは、ほかにはないものだと感じてジョージアで撮影することを選びました。
Q:監督はどのような発想でセリフを使わない作品を制作することにしたのか、俳優の方々には、セリフがないことによって演技にどのような影響があったのか、お聞きしたいです。
ソセリアさん:最初はセリフがないことに不安もありましたが、物語自体が非常におもしろかったこともあり、それほど大変ではありませんでした。
監督:日常の中で人と知り合うプロセスを想像してみてほしいです。たとえば誰かと知り合ってバーでデートをする時には、なにかたくさん話をしないと気まずいでしょうし、緊張すればするほど何か話さなければならないという気持ちになるでしょう。それは沈黙が居心地が悪いものだと考えているからです。一方でその人を知れば知るほど、徐々に会話は必要なくなっていきます。そうすると、ようやく目を見つめ合うことができるようにもなりますし、それによって誰かとの関係性は生き生きしたものになってくるはずです。私はこの質問をしてくれたことに非常に感謝したいのですが、セリフを入れないことによって、そのシーンは映画的な瞬間になると思っています。そしてセリフがないことによって映画が持つアート性を活かすことができると信じています。一方で、セリフがあった方がよい作品というのは、たとえば舞台やラジオのようなものだと考えています。
Q:LGBTQに対する扱いにやや難しさがあるジョージアではこの作品はどのように受け取られましたか。
監督:最初からこうした2人の女性の関係性を描いた作品にする予定ではありませんでした。ただ、2人の素晴らしい女優に参加していただいたことで、徐々に性別関係なく2人の間の素晴らしい友情を描こうという思いに至った結果が、今回のこの脚本になりました。こうした作品になったことは、私のジョージア出身のパートナーにとっては非常に驚きで、また恐れも感じていたようです。実際にジョージアで撮影許可を取る際には、この映画の実際のストーリーを伏せ、偽のストーリーで申請をする必要がありました。また、その際には、便宜上「2人の友人の間に問題が起こる」というストーリーにしました。それによって撮影許可は取れましたが、その後、ジョージアの映画祭でプレミア上映をすることになりました。その際の様子はプロデューサーのような活躍をしてくれたカパナゼさんからお話しいただきたいと思います。
カパナゼさん:ジョージアの社会がLGBTQに対して、あまり寛容でないのは伝統的に事実です。そして、特に男性同士の恋愛に対して世論がより攻撃的になる傾向があります。それに対して、今回は女性同士の物語で、他にも同様に女性同士の恋愛について描いた映画には冒頭に但し書きのようなものがなされていることもありましたが、どうせこうした戦いはこれまでも行ってきたことだったので、今回も同様に上映すればよいと思い、公開に踏み切りました。
Q:非常に古いゴンドラであることや、ガラスを使用するシーンもあり、とても危険な撮影だったのではないかと思いますが、実際どのように安全を確保しながら撮影をしていたのかお伺いしたいです。
監督:この撮影は実際、非常に危険を伴うものだったので、適切なクルーを探さなければなりませんでした。また、俳優の中には高所恐怖症のメンバーもいたので、それを克服しなければなりませんでした。私の長年の友人で、タジキスタンのバフティヤル・フドイナザーロフという監督がいますが、彼は『コシュ・バ・コシュ恋はロープウェイに乗って』という作品の中で、ケーブルカーを題材にしていました。彼は5年前に亡くなりましたが、この作品は彼に対するラブレターだと思っています。というのも、彼はいつも、私に作品制作におけるインスピレーションを与えてくれ、映画人生にも大きな影響を与えてくれました。あのケーブルカーはジョージアで最も高い場所にあるケーブルカーと言われていて、危険な状況も撮影中に実際に起きていましたが、No Pain, No Gain=リスクなくして得るものはない、と思い、作品作りに臨んでいました。
カパナゼさん:実際にはスタントのチームにも帯同してもらい撮影を行っていました。スタントの俳優が前に乗り出すシーンなどでは、クラッシュするリスクもあり危険だという話にもなりましたが、スタントのメンバーは「昔、同じように古いケーブルカーを故郷で見たことがあるが、それも1度も落ちたことがないから大丈夫だ」「ジョージアでは悪いことは考えないものだ」といって撮影を続けていました。
監督:車いすが谷を越えていくシーンがありますが、低予算だったためVFXを使うことができず、ジョージア出身のスタントマンを起用しました。彼は非常に強力なパーソナリティを持ち合わせており、特別なロープで車いすを吊るすという工事自体も彼自身が行っていました。あのシーンは、カメラアングルの都合上2回撮影をしたのだが、彼は2回とも、あの谷をきっちり車いすに乗って越えるというアクションをしてくれました。もともとチアトゥラという別の町で撮影しようと思っていましたが、そこにあったケーブルカーが撮影の半年前に動かなくなってしまい、改めてロケハンをした結果、本作の撮影地が見つかりました。この撮影地はもともと炭鉱の町で、撮影が始まる前には炭鉱はなくなり覇気がない沈鬱な雰囲気に包まれていましたが、ポスターでも、映画の中でも、その景色はスイスのように美しく描かれていることでしょう。これから話す内容は口外禁止ですが、ケーブルカーは実際には1つしかありませんでしたが、それを何往復もさせ、更にVFXを使って2個あるように見せています。私たちの予算はすべてそのVFXに費やしていました。
Q:監督の作品は乗り物にまつわるものが多いと感じています。これについて、監督は乗り物から作品を考えているのか、作品を考えた後に乗り物の要素を組み合わせているのか、どちらでしょうか。
監督:私は乗り物からインスピレーションを得ています。そのため、身の回りに乗り物がもっとたくさんあれば、それだけ私は多くの映画が作れると思っています。なぜ乗り物からインスピレーションを受けるのか、それは分かりませんが、もしかすると映画はある種の旅のようなものだと捉えているのかもしれません。キャラクターがいて、そのキャラクターは映画の中で何かしらの旅をし、そして鑑賞してくださる皆さんにも旅の体験を提供するのが映画です。つまり、皆さんは映画のチケットを買えばどこかほかの国に行くこともできるのです。この映画についていえば、実はジョージアに関する映画だとは思っていません。私もジョージアに住んでいる期間は長くないため、そこまで多くのことを語れるわけでもありません。ただ自分の中にある世界を作り上げた作品です。