2023.10.24 [イベントレポート]
『白い巨塔 4Kデジタル修復版』世界初上映 実際の手術シーン撮影、「反戦、反権力が生涯のテーマ」山本薩夫監督息子が語る
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山本薩夫監督の息子で映画プロデューサーの山本洋氏

第36回東京国際映画祭日本映画クラシックス部門で山本薩夫監督の代表作『白い巨塔 4Kデジタル修復版』が10月24日、世界初上映され、山本監督の息子で映画プロデューサーの山本洋氏が作品を語った。

謀略渦巻き欲望が踊る日本医学界の内幕を描いた衝撃作として話題を集め、キネマ旬報1966年日本映画ベストテン第1位ほか国内映画賞を総なめにした本作は、俳優・田宮二郎の代表作としても知られている。原作発表直後の1960年代以降、2019年まで複数回にわたり映像化された。

本作製作当時の山本監督のエピソードを問われ、「監督は家で飲みながら「いやあ、困った困った、実現するかわからない」と言っていました。どこの大学病院も協力してもらえないと。しかし、田村高廣さんが演じた里見のような、医療に熱心な先生がいらっしゃって、手術や医療機材の指導をしてくださいました。また、大映での初作品『忍びの者』がヒットしたので、永田雅一さんの理解も得られて撮ることができた」と振り返る。

タイトルバックの後に映る、噴門がんの手術シーンは、実際の患者さんの手術シーンを映したという。「患者さんに許可を得てカメラマンだけがひとり入って、撮ったそうです。それ以外は人間の内臓と似ている子豚の内臓を使っています」と明かした。

生前の山本監督の人となりについて、「予算の問題もあり、現場では厳しかったが俳優さん、特に女優さんには優しかった」と述懐。また、山本監督の未完成作品として、森村誠一氏が731部隊と人体事件をテーマとした書籍「悪魔の飽食」を映画化しようとしたが、右翼から抗議され、また、脚本を書き始めてがんが発覚して亡くなっため実現できなかったこと、野上弥生子氏が戦前戦後の一人の青年の生きざまを描いた「迷路」のシナリオも脚本家によりほぼ完成していたが、かなわなかったと振り返った。

そして「1980年代、日本の映画界でも戦争物の大作で戦争を美化するような傾向があった。監督は自分が苦しい思いをしたので、「それはいけない、戦争の本質を描かなければ」という思いがあり、絶対に(未完成の)2作を完成させたかった。生涯、反戦、反権力をテーマにして、それでも面白いものにしなければ、ということが彼の生きざまだった。早稲田の学生時代に軍事教練の反対闘争をやったことで、警察に捕まり拘留され、33歳で招集され、報道班として中国に送られ、国民軍の捕虜になって抑留された。戦後の東宝時代でも、映画法で検閲されて辛酸をなめて、レットパージがあって…。こういう青春時代を送ったことで、映画を作り続けたいと言っており、立派な生き方をしたと思う」と、激動の時代を経験し、その体験を踏まえて映画を作っていた山本監督の信念を伝えた。

第36回東京国際映画祭は、11月1日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
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