10/27(金) ガラ・セレクション『KIDNAPPED(英題)』上映後に、パオロ・デル・ブロッコさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会:田中文人(以下、田中):ただいまより、マルコ・ベロッキオ監督作品『KIDNAPPED』プロデューサーのパオロ・デル・ブロッコさんをゲストにお迎えし、お話を伺いたいと思います。では、パオロさん、一言ご挨拶をお願いします。
パオロ・デル・ブロッコ(以下、パオロ):こんにちは。映画祭にご来場いただき、この作品を観に来てくださり、ありがとうございます。この作品は、イタリアでたいへんヒットし、観客、批評家の両方から大きな支持をいただいた、イタリアにとって、とても重要な作品です。また、イタリア以外にもたくさんの国で上映され、非常に嬉しく思っております。監督からは「この場に来ることができず、非常に残念です。観客の方々にこの映画を観ていただくことをとても嬉しく思っております。」と、ベロッキオ監督やほかのプロデューサーのシモーネ(シモーネ・ガットーニ)さんやカスケット(ベッペ・カスケット)さんからも挨拶を承っております。
田中:作品の内容をご存じの方もいらっしゃると思いますが、この作品は19世紀のイタリアを舞台にしています。非常に特殊な政治状況や民族的、宗教的な状況が絡んでいるので、はじめは、非常に複雑な状況を理解していなければわからない映画ではないかと思ったのですが、ここで描かれている宗教と家族の関係は、今日日本が置かれている状況にとても近いような気がしました。これに関連して、マルコ・ベロッキオ監督が今このテーマに取り組まれた理由を、パオロさんはどうお考えですか?
パオロ:マルコ・ベロッキオ監督というのは非常に好奇心の強い人、いわばアーティストです。そんな彼は、初めてこの物語の原作を読んだ時に非常に感銘を受けました。この物語は道徳というのがテーマに関わっており、政治的な問題を扱った部分ももちろんありますが、政治の物語には留まらず、非常にデリケートなテーマを扱っています。ここで描かれている出来事は、その当時のイタリアを動かし、大きな衝撃を生んだものですが、描かれているのは非常に人間的で、普遍的な価値についてです。そのために、より多くの人に見てほしい、感じてほしいと思っています。ベロッキオ監督の映画というのは往々にして、道徳について描いていることが多く、そこには彼にとって非常に重要なテーマがありますが、特に家族と権力について描くことが多いのです。
ひとつ面白いのは、この物語を最初に映画化しようとしたのはスティーブン・スピルバーグ監督なんです。実際にオーディションをしてイタリア人を起用して撮影をしようとしたんですが、最終的に映画は出来ませんでした。恐らく、この映画を撮ることの難しさというのがそこにあると思うんです。何よりも主人公の子役を見つけるのが難しく、彼(今作で主人公を務めたエネア・サラ)は役者ではなく、今作品が映画初出演ですが、監督のおかげで豊かな表現力を引き出すことができたと思います。こうしたキャスティングにおいて、役者を選ぶのが非常に難しかったです。プロダクション側からも監督側からもさまざまな要望があり、とてもとても難しかった。恐らく、この映画が成功に結びついたのは、役者たちを上手くキャスティングできたというのが一因ではないかと思います。
田中:何年か前の東京国際映画祭でベロッキオ監督の『眠れる美女』(2012)を上映したことがあります。その時のゲストが、監督の息子で俳優のピエール・ジョルジョ・ベロッキオさんでした。息子さんに、「率直に監督はどんな方ですか」と聞くと、「非常に厳しい、僕だってオーディションを受けさせられるんだよ」と言われたことが非常に印象に残っています。
パオロ:監督はほんとうに真面目で、何事にも非常に真剣に取り組みます。そして、先ほど述べたように、彼の映画においては、道徳というものがテーマに関わる要素として非常に重要なのです。皆さんもご覧になったことがあるかもしれませんが、『眠れる美女』(2012)に関しても非常に強い政治的なメッセージが込められていたので、それが、プロダクション側への問題を引き起こしたりもしていました。そうした状況でも、監督はまったく妥協しない。私生活においてもつくり手としてもそうで、そうしたところから、価値の高い作家映画が生まれてくると思います。
田中:パオロさんはこれまでイタリアの著名な映画監督、マッテオ・ガローネ監督やアリーチェ・ロルヴァケル監督の作品にも携わってきました。イタリアのほかの名匠と比較しても、ベロッキオ監督は非常に厳しいと先ほどおっしゃっていましたが、ほかの監督とはいつもどのように関係を築いていますか?
パオロ:今名前が挙がった3人は異なる作家であり、特に、キャリアや年齢が違います。ベロッキオ監督は83歳、ガローネ監督は55歳、ロルヴァケル監督は41歳です。彼らはまったく違うタイプではありますが、共通するのは非常に道徳的価値の高い作品を制作していることです。撮影スタイルは各々異なりますが、映画には共通点があり、みな非常に素晴らしい監督たちだと思います。(東京国際映画祭は)非常に重要な映画祭なので、この場でお伝えしておきたいのですが、マッテオ・ガローネ監督の最新作“Io Capitano”(23)はヴェネツィア映画祭で2つの賞を受賞した非常に重要な作品で、アカデミー賞のイタリア候補にもなっています。素晴らしい作品で、おそらく日本でも観られるようになると思いますが、観るべき映画だと思います。その映画は、独創的な撮り方をしていて、世界で起こっている移民問題という、非常にデリケートな問題について描いています。その移民問題を、移民たちが到着してからではなく、旅をしている彼らを映し出す、非常に独特な視点から捉えた映画になっています。是非、これも併せて観て頂きたいと思います。