2023.10.29 [イベントレポート]
「日本の観客に会えるのなら、何が何でも来たいと思い、今朝来ました」10/27(金)Q&A:『ペルシアン・バージョン』

ペルシアン・バージョン

©2023 TIFF

 
10/27(金) コンペティション『ペルシアン・バージョン』上映後に、 マリアム・ケシャヴァルズ監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
司会:安田祐子アナウンサー(以下、安田アナ):ご機嫌な映画に、ご機嫌な方が来てくださっています。監督、脚本、プロデューサーのマリアム・ケシャヴァルズさんです。マリアムさんは今朝日本に着いたばかりです。
 
マリアム・ケシャヴァルズ監督(以下、監督):日本は初めてで、日本のお客様に会えるのだったら、何が何でも来たいと思い、今朝来ました。日本の伝統や文化は、私は(イランではなく)ペルシャという言い方をしていますが、ペルシャの文化や伝統と似ている部分もあると思っていますので、本日は楽しみにしております。
 
安田アナ:先ほどの上映を、監督が皆さまと一緒にご覧になっていましたが、「日本のお客様は、静かだわ」とおっしゃっていました。
 
監督:でも、笑っていただけていたのでホッとしています。
 
安田アナ:リアクションは静かでしたけど、この作品、すごく面白かったですよね。サンダンス映画祭では脚本賞と観客賞を受賞している作品なんです。サンダンス映画祭の観客はどんなところを気に入ってくれたのだと思っていますか?
 
監督:(この映画は)自伝みたいなものですが、まず自分のことを全部知ってもらいました。気難しい母親という関係性は誰でもわかるということです。そして、やはり、ファミリーの物語であるということ。アメリカというのは、移民で成り立っているわけですから、自分の故郷を捨てて、新しい体験をするために移民して、アメリカに来るというお話でもあるわけですから。あともう一つ驚いたのは、アメリカ人はイラン人がみんなテロリストだというふうに思っているんです。でも、この映画を観てもらって、家族・家族愛は一緒だと思ってもらえたところが良かったのかなと。
 
安田アナ:ほとんど実話と出ておりましたが、ちょっと変えている部分もあるということですね。どのあたりが違うのですか?
 
監督:トップシークレットです(笑)
(会場、笑い)
 
監督:私の父は20代の時に亡くなっています。ですので、残念ながら私の娘に会うことはできませんでしたが、映画の中では生き続けて、孫に会うことができました。それと、私の母親は実際に時間を止めることができるんです。もちろん自伝ではあるのですが、3つの世代の物語なのです。それぞれの世代の視点で見ている世の中なので、その時の真実はどういうものだろうかということもちょっと考えることができればと思っております。
 
Q:今回、はじめてイラン映画を観ました。この映画はどこで撮影をしたのでしょうか。アメリカでしょうか?イランでしょうか?
 
監督:まず、これはイラン/アメリカ映画です。これは私にとって、4本目の長編監督作品ですが、2本目の“Circumstance”で2人の女性の愛について語った物語の映画を撮ったために、私はイランに入国できなくなってしまいました。この映画は、イランではなく、ニューヨーク、ニュージャージー、そしてトルコで撮影しました。
 
安田アナ:話の内容か、お立場かによって、イランではこの映画はなかなか上映できないということでしょうか?
 
監督:“Circumstance”という映画は、実は、イランのブラックマーケットのDVDですごく売れたんですよ。宗教でコチコチの私のおじまで観ているらしいので、観ようと思えば観る手段はいくらでもあります。この世の中、DVDもありますし、YouTubeもありますよね。ペルシャ人というのは、ものすごくいろいろなものに興味をもつ人たちなので、違法ですがブラックマーケットでこの映画もあるかと。でも、ソニーがかかわっていますから、(違法でなく)何らかの形で観ることができると思っています。
 
Q:撮影中や脚本の執筆中に家族の温度感を表現するために工夫をしたことはありますか。
 
監督:話すことがたくさんあります。まず、書き始めたときには脚本が180ページになってしまいました。いろんな登場人物がいるので、あとはもう消去していくしかないとなったんです。これは三世代の話で、3人の女性の話だと気が付いた時点で89ページに短くすることができました。89ページに短くしたところで、脚本は脚本としてありますが、私は監督ですから、俳優さんをキャスティングするうえで、本物の家族を描いていかなければなりません。兄弟の数がとても多いのですが、各兄弟のセリフは3〜4行ずつしかないんです。ただ、それぞれの個性が出るような、性格を表現できるような形にしたいということもあって、うまくそこを調和できる方々をキャスティングしなければいけないと考えていました。リハーサルももちろん非常に大変でしたが、リハーサルがない日や暇な時間は必ずみんなでお昼ご飯を食べ、本読みをしてさまざまな話し合いをして、アシスタントが即興で「こんなことをやってみるのはどうだろう」と言ったことを脚本に少し書き足し、より家族らしい関係性を作っていきました。ちなみに私は本当の家族のWhatsApp(チャットアプリ)グループと、映画の家族のWhatsAppグループと、2つ持っています。映画の家族とはそれほど近い関係です。
 
安田アナ:いいですね。私は出産シーンに大爆笑しましたが、あれは実際にあのような形だったのですか。
 
監督:若干個性を強くしている部分もありますが、映画と同じように私の1番上の兄は血を見ると倒れますし、そのような方はたくさんいらっしゃると思います。本物と同じです。ただ、私の家族は自分のことを本当によくサポートしてくれるので、私がいるところには必ず家族がいるという感じです。
 
Q:映画のエンディングのシーンを考えたうえで、この映画の中の家族の将来に自分が行ったとした場合、どんな家族だと想像しますか?
 
監督:アメリカにはたとえば憎しみなど、色々な思想をもつ人々がいて、残念ながらアメリカに住むこと自体には、あまり希望がないと思っています。だから家族がすべての始まりということになります。この映画の中で女の子が生まれて、女の子に「アズゥル」と名づけます。娘の名前が亡くした娘の名前になるわけですから、今までのトラウマが1度そこで途切れ、そこから新しい家族ができる希望があるのです。あのシーンでひとつのトラウマが終わって、希望の時代が出てくると思います。それがやはり家族だと思います。私自身も自分の母とはなかなか難しい関係性だったし、この映画の中のお母さんもそうですよね。外国人を嫌っていたり人目を嫌ったりというところがあります。イデオロギーや考え方をお互いに理解することはなかなか難しいですが、やはり自分の子ども、娘が生まれて母との関係性が変わったような、より近くなったようには感じます。考え方は違う人間ですが、その部分で新しい関係性ができたことを自分は感じたので、希望を持てるのではないかと思います。
 
Q:餃子のシーンの後半部分でマグロの残留水銀の話をされていましたが、そういう細かいところにセリフを入れたのは娘が生まれて母親として、次世代の女性へのメッセージが含まれているのでしょうか。
 
監督:あれは内輪に向けたジョークも含まれていました。私の最初の映画が公開されたとき、妊娠8か月だったのですが、いろいろなフェスティバルに行き、たくさん食べていました。当然周囲からは「やめたほうがいいんじゃないの?」といつも止められていて、何しろお寿司が大好きな人間なのですが「大丈夫なの? そんなに生ものを食べたりして。」と言われていたこともあって、当時を思い出してこの映画の中にも取り入れました。実際には、妊娠8か月だったということに加えて、初めて監督を務めた映画が公開されるということでストレスがありましたが、周りは私がお寿司を食べるか食べないかだけを気にしていたという鬱憤があったので、そのことを映画に取り入れたのです。

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