東京国際映画祭公式インタビュー:
コンペティション
『真昼の女』
バルバラ・アルベルト(監督/脚本)、マックス・フォン・デア・グレーベン(俳優)
ふたつの世界大戦を体験した激動の時代を背景に、自分らしく生きることを求め続けたユダヤ人女性の魂の流離を描き出す。ドイツ人作家ユリア・フランクのベストセラーをもとに、オーストリアを代表する女性監督バルバラ・アルベルトが、時代に屈することなく自由を求めた女性像を浮き彫りにする。ヒロインを演じたマーラ・エムデ、相手役を務めたマックス・フォン・デア・グレーベンが熱演をみせる。時代を再現した美術も素晴らしい。
――作品を興味深く拝見しました。原作に惹かれて映画化しようと思われたのか。どんな経緯でプロジェクトは始まったのですか。
バルバラ・アルベルト(以下、アルベルト監督):私の大学時代の友人、脚本家のメイケ・ホークから「この小説は絶対読んで」と勧められました。読んでみると、ヒロインのキャラクターに共感しました。ぜひ映画にしたいと、原作者のユリア・フランクに、ラブレターのような熱意ある手紙を書きました。それが始まりです。
――ヒロインのどこに惹かれたのですか。
アルベルト監督:諦めない気持ち、芯の強さに魅せられました。彼女はアイデンティティを大切にしている。たとえ自分の子どもを捨てても、アイデンティティを守ろうとする。子どもを育てていたら、自分ではない女性として生きることを強いられるから。それぐらい強い気持ちを持った女性像に惹かれました。
――女性が画一的に生きることを強いられた時代背景のなかで、彼女は諦めなかった。この部分に惹かれたのですね。
アルベルト監督:これは過去の問題ではないと思います。現代でも、女性は世界中で強いられて生きている。自分の望む人生を生きられない女性はたくさんいます。これは決して昔の話ではないし、背景になる時代に惹かれたわけでもありません。同時にこの物語は、女性の身体に密接したストーリーになっていると思います。
――身体的な面ですか。
アルベルト監督:恋に落ちて、キスして、最初のセックスをする。すごく優しいセックスですが、その後に、今度は強姦に近いようなセックスになり、子どもが欲しくないのに妊娠してしまう。堕ろそうとするが、結果的には子どもを産み、母乳をあげる。女性の身体の経緯が書かれていることも、私はとても惹かれました。もちろん、時代背景も大事です。この映画を主人公と同じ苦労をした私の祖母たちに捧げたいと思います。女性の人生、女性の苦難は、女性の身体が記憶しているものだと思います。脈々と次の世代に受け継がれているものだと思っています。
――そういう思いを監督はお持ちになっていて、男性代表じゃないですけど演じてみてどうでしたか?
マックス・フォン・デア・グレーベン(以下、グレーベン):僕はこの小説を読んだことがありませんでした。僕の役はナチスの兵士ですが、モンスターではない、 人間味のあるキャラクターです。その人間性はやがて失われていきますが、彼女を愛していたと思います。彼の心の葛藤を表現したいと思いました。彼の人間らしさがとても好きでした。
――監督から直接的にどんな指導がありましたか?
グレーベン:監督とはいろいろリハーサルを繰り返し、彼の人間性、心の変化を詳しく話し合いました。
アルベルト監督:今の時代の男性でも求める女性像というのがあって、それに沿わないと傷つき、憎しみに変わってしまう。自分が愛されていないんじゃないかと思う。でも、とても人間的であります。だから彼の演じたヴィルヘルムは、決してモンスターでもない、とても人間的な人物でもあると思います。彼は本能的な勘の鋭い俳優で、すごく的確に演じる。だから、ジェスチャーひとつで、ヴィルヘルムが何を考えているかとか、彼の思いを表します。ヴィルヘルムは私の祖父の世代に似ています。悲しいことですが。
――このヒロインは強い、この時代では並外れた強さを秘めています。彼女のこのキャラクターはどこで培われたものと考えていますか。それは彼女の民族性、ユダヤ人であるということも含まれているのですか。
アルベルト監督:ユダヤ人であるということは、そんなに関係してないと思います。当初は、彼女は自分がユダヤ人であることを知らない。むしろ、精神的におかしくなってしまった母親との生活が彼女を強くしたと思います。後に自分がユダヤ人ということを知り、今度はドイツの中のユダヤ人として賢くいなければ生きていかれなかった。必然的により強くなったと私は思います。
――映画で描かれる時代は長い年月に及びますが、苦労なさったことはありますか?
アルベルト監督:とても苦労しました。ヴィルヘルムと主人公の関係に焦点を当てたいが、より違いを明らかにするために、主人公の前の恋を描かずにいられなかった。映画を2時間くらいで収めるためにカットしなければいけないことがありました。
――オーストリアで際立った監督のおひとりですが、 不幸なことに日本ではあまり公開されていません。やはり女性を主人公にした作品が中心なのですか?
アルベルト監督:女性の映画が比較的多いことは事実です。なぜならば、やはり自分が共感できる、自分に似ているキャラクターを描きたいという気持ちがあったからです。興味を持つ、描きたいと思う物語は女性の主人公が多かったのです。
次回作は男性と女性、両方の映画になります。脚本を書いている最中です。ウィーンの映画学校で教授もしているので、なかなか時間が取れなくて大変です。
――その映画はオーストリアの映画ですか?
アルベルト監督:オーストリアとドイツです。もう13年間、ウィーンとベルリンの両方に住んでいるのです。