カン・ジェギュ監督
韓国における日本大衆文化開放25周年を記念し、韓国映画振興委員会(KOFIC)の協賛、駐日韓国大使館 韓国文化院の協力で『
シュリ(デジタル・リマスター版)』が10月27日、第36回東京国際映画祭で特別上映され、本作の監督・脚本を務めたカン・ジェギュがTOHOシネマズシャンテで舞台挨拶に立った。
1998年の「日韓共同宣言」を機に本格化した、韓国での日本大衆文化の開放から25周年を記念して行われる本上映。両国の映画交流の火付け役となった岩井俊二監督の『
Love Letter』、カン監督の『
シュリ(デジタル・リマスター版)』の2作品を上映する。
日本では2000年に公開され、当時の韓国映画としては破格の興行収入18億5000万円という大ヒットを記録し、韓国映画ブームの火付け役に。韓国の諜報(ちょうほう)員と北朝鮮の工作員との攻防を、男女の悲恋に絡みダイナミックに描いたアクション大作。観客と一緒に映画を鑑賞していたというカン監督は、「皆さんにお会いできてうれしいです。時間がたつのは早いもので、日本での公開から23年という時間が過ぎました。劇場のスクリーンで再見し、昔のことを思い出して胸が熱くなりました。この作品をご紹介できてうれしく思います」と挨拶した。
また、この作品が生まれた経緯について「実はデビュー作『銀杏のベッド』のシナリオを書いていたのが中国でした。北京の大学の寄宿舎で執筆していたところ、そこで北朝鮮からの留学生の人たちに会ったんです」と、カン監督は切り出す。
「わたしたちの国は分断されているので、普段はなかなか北の人に会う機会がなく、それはとても新鮮な衝撃でした。『銀杏のベッド』を書いている最中ではありましたが心の片隅では、南北分断があるものとして、ここには宝石のような物語、心が痛くなるような物語があるのだろうと思った。『銀杏のベッド』をつくったら、次はこのモチーフで映画を撮りたいと思うようになりました」
しかし南北の分断をエンタテインメントとして描くというこのプロジェクトを実現させるのは、当時の韓国としては簡単なことではなかったという。「最初にシナリオを書いたとき、まわりの出資者やプロデューサーたちからも面白そうだという意見が出た反面、南北の問題を扱う映画をつくるのは大変ではないか、北朝鮮が出る映画をつくって成功するのか? と言われました」と振り返ったカン監督。もともと韓国の軍事独裁政権下には、北朝鮮をモチーフとした映画はつくられていたというが、それは「反共映画」と呼ばれるプロパガンダのイメージが強かったということもあったようだ。しかしそんな中でも、韓国の国家情報院が本作の撮影に非常に協力的だったことは、本作の企画を推進するうえで、大きく役にたったようだ。
東京国際映画祭プログラミングディレクターの市山尚三氏が「本作は(韓国のテクノロジー企業である)サムスンが出資していましたが、そこは問題がなかったのですか?」と質問を投げかけると、「サムスンからの出資は早い段階から進んでいたので、そこに関しては順調でした。ただ問題なのはその後。『シュリ』は大成功を収めたのですが、映画に出資したサムスンの映画事業部が廃業してしまったのです」と明かす。
その廃業に『シュリ』は関係なく、ほかの音楽事業などの失敗によるものだったというが、その結果、本作の上映権が宙に浮いたままの状態となっており、韓国や日本、その他の国でも、映画公開のみならず、ストリーミング配信でさえも観ることができない状態が長らく続いていたという。実際に市山氏のもとにも「どうやって今回の上映の許可を得たのか?」という問い合わせがいくつか来ていたほどに、この日の上映は貴重なものだったようだ。だがカン監督が「版権の問題も無事にクリアできました。来年は韓国で『シュリ』が上映されてから25年という節目の年なのですが、来年の上半期あたりに、韓国や日本でも上映できないかなと計画をしています」と明かすと、会場からは拍手が送られた。
本作にはハン・ソッキュ、チェ・ミンシク、ソン・ガンホという、韓国を代表する名優たちが、若き日に出演した作品としても注目される。「もちろんハン・ソッキュは当時も有名ではありましたが、かといって映画俳優として大韓民国を代表するというまでではなかった。しかしいずれは、韓国を代表する俳優に成長するだろうとみんな考えていたわけですが、『シュリ』の後はそういう存在になりましたよね」と語るカン監督。主人公の相棒となる諜報員を演じたソン・ガンホについても、「彼も当時はメインキャラクターを演じる俳優ではなかったんですが、(ハン・ソッキュ、チェ・ミンシクも出演する)『ナンバー・スリー NO.3』という映画の芝居が本当に新鮮だった。リアリティに基づいた演技という概念を覆すような、リアリティの概念を越えられる俳優だと思ったんです。だから彼に演じてもらったら、彼なりの独特のニュアンスやカラーを出してくれるんじゃないかと思った。きっと将来は個性的な俳優になるだろうなと思ったので、一緒に映画を撮りたかった」と述懐した。
さらに北朝鮮の工作員を演じたチェ・ミンシクに関して「彼は当時も、テレビなどでいろいろなキャラクターを演じている俳優さんでした。それはやはり演劇で培われたものであり、まさに実力派の俳優だと思ってご一緒させていただいたんです」とそのキャスティングについても明かしていた。
第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催。
カン・ジェギュ監督
韓国における日本大衆文化開放25周年を記念し、韓国映画振興委員会(KOFIC)の協賛、駐日韓国大使館 韓国文化院の協力で『
シュリ(デジタル・リマスター版)』が10月27日、第36回東京国際映画祭で特別上映され、本作の監督・脚本を務めたカン・ジェギュがTOHOシネマズシャンテで舞台挨拶に立った。
1998年の「日韓共同宣言」を機に本格化した、韓国での日本大衆文化の開放から25周年を記念して行われる本上映。両国の映画交流の火付け役となった岩井俊二監督の『
Love Letter』、カン監督の『
シュリ(デジタル・リマスター版)』の2作品を上映する。
日本では2000年に公開され、当時の韓国映画としては破格の興行収入18億5000万円という大ヒットを記録し、韓国映画ブームの火付け役に。韓国の諜報(ちょうほう)員と北朝鮮の工作員との攻防を、男女の悲恋に絡みダイナミックに描いたアクション大作。観客と一緒に映画を鑑賞していたというカン監督は、「皆さんにお会いできてうれしいです。時間がたつのは早いもので、日本での公開から23年という時間が過ぎました。劇場のスクリーンで再見し、昔のことを思い出して胸が熱くなりました。この作品をご紹介できてうれしく思います」と挨拶した。
また、この作品が生まれた経緯について「実はデビュー作『銀杏のベッド』のシナリオを書いていたのが中国でした。北京の大学の寄宿舎で執筆していたところ、そこで北朝鮮からの留学生の人たちに会ったんです」と、カン監督は切り出す。
「わたしたちの国は分断されているので、普段はなかなか北の人に会う機会がなく、それはとても新鮮な衝撃でした。『銀杏のベッド』を書いている最中ではありましたが心の片隅では、南北分断があるものとして、ここには宝石のような物語、心が痛くなるような物語があるのだろうと思った。『銀杏のベッド』をつくったら、次はこのモチーフで映画を撮りたいと思うようになりました」
しかし南北の分断をエンタテインメントとして描くというこのプロジェクトを実現させるのは、当時の韓国としては簡単なことではなかったという。「最初にシナリオを書いたとき、まわりの出資者やプロデューサーたちからも面白そうだという意見が出た反面、南北の問題を扱う映画をつくるのは大変ではないか、北朝鮮が出る映画をつくって成功するのか? と言われました」と振り返ったカン監督。もともと韓国の軍事独裁政権下には、北朝鮮をモチーフとした映画はつくられていたというが、それは「反共映画」と呼ばれるプロパガンダのイメージが強かったということもあったようだ。しかしそんな中でも、韓国の国家情報院が本作の撮影に非常に協力的だったことは、本作の企画を推進するうえで、大きく役にたったようだ。
東京国際映画祭プログラミングディレクターの市山尚三氏が「本作は(韓国のテクノロジー企業である)サムスンが出資していましたが、そこは問題がなかったのですか?」と質問を投げかけると、「サムスンからの出資は早い段階から進んでいたので、そこに関しては順調でした。ただ問題なのはその後。『シュリ』は大成功を収めたのですが、映画に出資したサムスンの映画事業部が廃業してしまったのです」と明かす。
その廃業に『シュリ』は関係なく、ほかの音楽事業などの失敗によるものだったというが、その結果、本作の上映権が宙に浮いたままの状態となっており、韓国や日本、その他の国でも、映画公開のみならず、ストリーミング配信でさえも観ることができない状態が長らく続いていたという。実際に市山氏のもとにも「どうやって今回の上映の許可を得たのか?」という問い合わせがいくつか来ていたほどに、この日の上映は貴重なものだったようだ。だがカン監督が「版権の問題も無事にクリアできました。来年は韓国で『シュリ』が上映されてから25年という節目の年なのですが、来年の上半期あたりに、韓国や日本でも上映できないかなと計画をしています」と明かすと、会場からは拍手が送られた。
本作にはハン・ソッキュ、チェ・ミンシク、ソン・ガンホという、韓国を代表する名優たちが、若き日に出演した作品としても注目される。「もちろんハン・ソッキュは当時も有名ではありましたが、かといって映画俳優として大韓民国を代表するというまでではなかった。しかしいずれは、韓国を代表する俳優に成長するだろうとみんな考えていたわけですが、『シュリ』の後はそういう存在になりましたよね」と語るカン監督。主人公の相棒となる諜報員を演じたソン・ガンホについても、「彼も当時はメインキャラクターを演じる俳優ではなかったんですが、(ハン・ソッキュ、チェ・ミンシクも出演する)『ナンバー・スリー NO.3』という映画の芝居が本当に新鮮だった。リアリティに基づいた演技という概念を覆すような、リアリティの概念を越えられる俳優だと思ったんです。だから彼に演じてもらったら、彼なりの独特のニュアンスやカラーを出してくれるんじゃないかと思った。きっと将来は個性的な俳優になるだろうなと思ったので、一緒に映画を撮りたかった」と述懐した。
さらに北朝鮮の工作員を演じたチェ・ミンシクに関して「彼は当時も、テレビなどでいろいろなキャラクターを演じている俳優さんでした。それはやはり演劇で培われたものであり、まさに実力派の俳優だと思ってご一緒させていただいたんです」とそのキャスティングについても明かしていた。
第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催。