2023.10.28 [イベントレポート]
チリの歴史では教えられなかった、埋もれてきた歴史を描く「なんらかの形で語りたいと思った」
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第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に選出されたフェリペ・ガルベス監督の『開拓者たち』が10月28日、東京・丸の内TOEIで公式上映された。Q&Aにはガルベス監督が出席し、観客からの質問に答えた。

20世紀初頭の南米パタゴニア地方を舞台に、チリの歴史の中で埋もれていた事件に光を当てた本作。白人と先住民の間に生まれた若者は土地の計測を目的とする白人グループと一緒に旅をしたはずだったが、やがて彼らの実際の使命が先住民を殺害することだったことを知る、という衝撃のドラマだ。

チリ出身で、現在はフランスに在住しているガルベス監督だが、この作品には世界各国のスタッフが参加。「自分にとってはこの映画が初の長編映画だったのですが、製作には時間がかかりましたね。チリでつくるのが大変だったので、その結果9~10カ国が参加する共同製作となった。それは非常にオーガニックな形でしたね。イギリスの俳優と一緒に組むこともできたし、サウンドデザインでは台湾の方(ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン作品の録音技師として知られるドゥ・ドージー)と一緒に組むことができて、非常に面白い経験となった。そうやってユニバーサルな映画になったと思う」と明かす。さらに、「共同製作をすることによっていろんな方に脚本を見せることになるため、結果的に違う視点、フィードバックが返ってくる。どうしたらこの映画を伝えられるか、ということをあらためて考えさせられるきっかけにもなったので、ユニバーサルな映画になったと思います」とその効果について語った。

くしくも本映画祭のワールド・フォーカス部門では、19世紀のチリを舞台にしたクリストファー・マレー監督の『魔術』が上映。この作品も本作同様、19世紀を舞台にした先住民と白人移民との対立がテーマとなっていたが、そのことについて観客から指摘されると、「これは一部偶然というところもありますし、同世代が共有している興味というのもあるかもしれません。『魔術』に関しても、われわれの歴史の一部でありながらも、これまで語られてこなかったことを題材としています。学校で学ぶような歴史ではないですが、同世代人として、何らかの形でこの歴史を語りたいというところもあったのかなと。そういう意味で偶然性があると思います」と語ったガルベス監督。「実はこの映画をつくるのに9年かかっているんですが、チリがお金を出したのは最後だった。チリが話したがらない歴史ですし、政府も虐殺があったことを認めたのは最近のことだったから」と付け加えた。

本作の語り口は物語の進行に合わせて変わっていき、いくつかの映画ジャンルを横断するかのように描かれる。その理由について「西部劇というのは、その時代の最新鋭の技術で撮ったものという思いがあったので、自分としてはデジタルの6Kカメラで撮りました。一方で(レトロな画面が登場する箇所があるという点に関しては)自分としては(映画の元祖である)リュミエール兄弟からの影響が非常に強いということもあります。映画が現実を表すものだとは思っておらず、逆に映像をつくるにあたりディストーション(ゆがみ)を意識しています。そしてもうひとつはいろんなジャンルを超えていきたいと思ったんです。西部劇であり、会話劇であり、ホラーであり、政治的なスリラーでもある。いろんなジャンルを旅していくということです」とその思いを明かす。

そして「この映画は、いろいろなものに対する批判が描かれている作品。たとえば政治的なものに対する批判、さまざまな層に対して批判をしている。そこには映画に対する批判というのもあります。映画というのは20世紀の西部劇がそうだったんですが、植民地主義を正当化するジャンルをつくってしまったという責任があると思うんです」と語ったガルベス監督は、ミシェル・グアニャ演じる女性の先住民、キエプジャという役柄について、「だから女性であり、先住民族である彼女が(とあることを)拒絶するというのが非常に大事。それは現代にも通じるものじゃないかと思う。その表情で悲しさや怒りを伝えることができたのは、ミシェルという役者の才能のおかげであると思います」とその思いを語った。
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