2023.10.27 [イベントレポート]
「悪事が起こるのは夜だけではありません」10/25(水) Q&A:ワールド・フォーカス『白日の下』

白日の下

©2023 TIFF

 
10/25(水)ワールド・フォーカス『白日の下』上映後に、ローレンス・カン監督ジェニファー・ユーさん(俳優)、ワン・ピン・チューさん(作曲)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会:石坂健治シニア・プログラマー(以下:石坂SP):監督に、実際の事件を映画化するに当たり、どのような工夫をされましたか?
 
ローレンス・カン監督(以下:監督):香港中が大騒ぎになった事件でした。当時に取材をされていた記者の方に話しを伺ってから脚本に取り組みました。(映画化の際は)キャスティングにも関わりました。
 
石坂SP:ジェニファー・ユーさんへの質問です。記者として施設に潜入し、調査を行うという重い役柄でしたが、どのようなところに気を付けて役作りを行いましたか?
 
ジェニファー・ユー(以下:ジェニファーさん):自分は、今まで記者という仕事に馴染みがなく、よくわからない状態でした。そこで、当時の担当記者の方にお会いして考え方や態度を学び、そのうえで自分でも事件のことや、当時の状況を自分なりにたくさん調べました。記者の方と同じように自分なりに調べ、考え、最終的には現場にも足を運んだことで、本当の記者として潜入しているような説得力が出せたと思います。
 
石坂SP:続いてワン・ピン・チューさんへの質問です。社会派の映画に合わせた音楽を制作することについて、監督とはどのような話し合いをして制作を進めたのか教えてください。
 
ワン・ピン・チュー(以下:ワンさん):作曲の過程で大事にしたのは、まず、音楽によって、映画を観ている人の感情の動きを、1つの方向に促すことがないようにすることです。例えば、いかにも涙を誘うようなメロディをつけることで、そのシーンを見ている人に泣くことを強要するようなことはしたくありませんでした。この点に関しては、監督とも事前に話をし、気を付けて作曲しています。その後には、イタリアの楽団に行き、その都度、見ている人にどのように音楽を聞かせるか、どのように聞く人の感情をコントロールするかということを考えていきました。
 
Q:作品のタイトルについての質問です。タイトルにある「白日」という言葉に込められているのは、明るい未来や希望なのか、反対に、 忌まわしく恥ずかしい事件を明るみに出すという意味なのか、どちらなのかをお伺いしたいです。
 
監督:一般的には、悪人は夜に動く、悪いことは夜に起こると考えられていると思いますが、実は悪事が起こるのは夜だけではありません。むしろ昼間に起こることのほうが多いのではないでしょうか。私は、昼間、本当にすぐそばの風景に溶け込んでいる人など、自分たちの身近なところで悪が動いていると考えており、そのために敢えてタイトルに「白日」という言葉を用いました。
 
石坂SP:監督は脚本もご自身で書かれていますよね。脚本段階からこのタイトルをつけていたのでしょうか。
 
監督:脚本は他にも2人と共同で執筆したので、皆でさまざまなタイトルの候補を考えました。そのなかでもこの『白日の下』というタイトルが一番作品に合っていると思い、最終的にこのタイトルに決まりました。実際、太陽の光というのはこの作品を支える重要な要素になっています。
 
Q:物語の終盤に印象的なセリフがありました。脚本を執筆する際に工夫をしたことがあればお伺いしたいです。
 
監督:まず、私は、この映画でスーパーヒーローを描きたかったわけではありません。これまでの自分に対する反省も踏まえ、現実の世界のなかで、絶望を感じたり、とても悲しかったりするときでも涙を拭き、前を向いて歩いていける人になりたいという思いを出発点に、物語をつくりました。だからこそ、この脚本を執筆する際には、そのような思いをかたちにすることに心を砕きました。
 
石坂SP:ジェニファーさんは脚本を読んだ当初、どのような感想を抱きましたか?
 
ジェニファーさん:まず、俳優としては、そのキャリアの中でもこれほど素晴らしい脚本に出会うことはなかなかないと思うほど、良い脚本だと感じました。また、監督が5年という歳月をかけてこの脚本を完成させ、これまで準備をしてきたことを知り、これほど素晴らしい脚本を無駄にしたくないとも思いました。ただ、1人の人間としてこの脚本を読むと、やはり怒りを覚えます。今でも似たような事件が実際に起こり続けているからです。完成した作品を3回観ましたが、観るたびに怒りがこみ上げてきます。できることなら、この作品を通して、このような事件がなくなることを願っています。
 
Q:今作で描かれた施設長は、性的暴行を行う加害者でありながら、入所者を助けることへの使命感も持ち合わせている2面性のあるキャラクターでした。また、周囲の人々も見て見ぬふりをし、保身に走る様子が描かれ、これらは日本でも同様に起きているような、社会的な問題を示唆していたと思います。この点に関して、今作のような社会的メッセージが強い作品を制作する際に、映画としてのエンターテインメントの要素と社会的メッセージを訴える部分のバランスの取り方をどのように意識していますか?また、お2人(ジェニファー、ワン)は完成した映画を見た後に、それぞれ役者と作曲の立場で新しく発見したことや芽生えたものがあればお伺いしたいです。
 
監督:自分自身、監督としては未だ成長過程にあり、映画を勉強し続けている身ではありますが、これまでさまざまな作品を観てきたなかで、たくさんの映画に感動させられてきました。そのうえで、社会派的な作品だとしても、物語の根底を支えるのは、ヒューマニティであり、これが最も大切だと思っています。そのため、今作においても人間性を丁寧に描こうと考え、キャラクター同士の間に生まれる感情を細かく描写しました。
 
ジェニファーさん:私が、俳優という立場で、皆さんに是非知っていただきたいことは、香港には素晴らしい俳優がたくさんいるということです。主役である私や施設長を演じたボウイ・ラムさんはもちろんのこと、施設の中にいたエキストラやミニキャストの皆さんも素晴らしい演技力を持っています。監督が演技の指導をしているときも、カメラに映らないところでも、手を抜かずに芝居をしていて、彼らの芝居に私が引っ張ってもらうこともありました。香港には素敵な俳優がたくさんいることを、ぜひ皆さんに知っていただきたいです。
 
ワンさん:作曲家という立場では、作曲するにあたりどのような角度からアプローチするか、どのようにこの作品に音楽を組み込むかを考えさせられました。というのも、俳優の皆さんの芝居があまりにも素晴らしかったので、音楽で観客の感情を導く必要はなく、皆さんの芝居と少しの音楽だけで十分思いを伝えられると思ったからです。例えば、施設長が若い女の子を強姦するシーンでは、あえて悲惨な音楽にはせず、とても静かな音楽を合わせました。楽器にも差をつけ、男性はコントラバス、女性はチェロにしています。さらに、音楽にも人間味を出そうと工夫も凝らし、録音のためにイタリアまで行ったこともありました。パソコンやAIなどで音を出すこともできますが、機械による均一な音ではなく、やはり人が奏でる音に拘りたかったのです。楽器は10人弾けば、10人分の音色が生まれます。イタリアではエンニオ・モリコーネさんがつくったスタジオをお借りし、人間味のある音を作り出しました。それがまた監督のつくった作品の後押しになったと思っています。

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